「富士の樹海へ」第二十二話 | My name is Benny

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しがない暇潰し

「久々にビックリしたわ」
人影が木陰から全身を晒した。
真っ黒なシルエットでしかない。
どんな顔をしているかもわからない。
ただ、ナカタが思ってた程の体躯はそこになかった。
「あんたは何をしてんだ」
ナカタはボソッと尋ねた。
「俺はバイトだよ」
人影がそう答える。
バイトって事は、ナカタが自分の推理をその答えに重ねる。
「おたくは死ぬって、どうやって死ぬつもり?」
ナカタは答えなかった。
「さっき首吊りの遺体は見たんでしょ?あの人と同じようにするつもり?」
やけにズケズケ聞いてくるじゃねぇか。
「関係ないじゃねぇか。」
ナカタは答えた。
「いや、何なら力貸してやろうかと思ってね」

ナカタは沈黙する。
「力を貸すってどうやって」
「楽にしてやろうかって事よ、そんなに死にたきゃ」
男は少し笑い混じりに答えた。
「言っとくけど、俺は人殺しじゃないよ」
尚も笑っている。
ナカタは顔のひきつりを必死に抑えた。
完全に相手のペースだった。
「まぁ、俺もあんたみたいなのと会うのは初めてじゃねぇんだわ」
男は懐中電灯で自分の顔を照らした。
ナカタはそれに戸惑った。
男はナカタの想像よりずっと若々しかった。
下手すりゃ俺より若いんじゃねぇか。
首からは大仰なゴーグルみたいなもんを提げている。
「どうするかは自分で決めれば良いけど、せっかくだからオススメスポットを教えてあげるよ」
男はそう言うとゴーグルを掛けてナカタの脇を奥へと進みだした。
「あんた名前は?」
ナカタは尋ねながら男の後に続いた。
「それ聞いてどうすんのよ」
と笑われる。
「気が向いたら教えてあげるよ」
なんだこいつは。
不思議な事にてき何だか分からねぇけど、興味わいちまったよ。
ナカタは黙って男の後を歩いた。

「なんで死のうと思ってんの」
ナカタに肝心な質問が飛ぶ。
「まあこれも何かの縁だし」
逆の立場なら俺も聞くよな。
「慢性的な鬱でね」
言葉に起こすと何とも安っぽく響く。
「病院行った?」
「行ってねぇよ」
行ったとこで知れたもんだろ。
多分こいつもそれは分かってるだろうと思った。
「鬱の人結構いるよね」
また惚けたような男の返事があった。
「俺もここへ初めて来た時は死のうと思ってたのよ」
ナカタの動きが止まった。
「人生色んな事があるよ」
「そうだな」
専ら悪い事ばかりが続いてね。
ナカタは男にそう続けようと思ったが、何となくそれが言えなかった。


※上記一切は創作につきフィクションです。