大月駅の外に出ると、ナカタは駅前に地場の歴史の書き込まれた看板を見掛けた。
所在も書いてある。
ああ、ここって山梨県なんだ。
なんとなく静岡だと思っていた。
フフッと口許が歪む。
なにせ俺は何にも知らねぇからな。
地理も歴史も全然知らない。
昔から興味なかったし、今更、殊どうでもいいと思った。
駅前に弁当売りがいるような事が誰かのブログみたいなので紹介されてたけど、見付からねぇし、幸い近くにコンビニがあるようなんで、ナカタはそちらに向かって歩いた。
コンビニの前に着いた。
たて灰皿をようやく見つける。
だらしなく灰皿の前に膝を折って屈む。
煙草に火をつけながら、日が額に射して目を細める。
朝から暑いな。
苛々してきた。
ナカタは煙草を吸い終わると、コンビニの中に入った。
プラスチックの籠をさらって、中に売り物を放っていく。
弁当のコーナーで幕の内を手に取り、ビールと水を一本ずつ入れた。
これって最後の朝飯だろ。
我ながら湿気ったチョイスだよなぁ。
そう思うと情けない。
カウンターで会計をする。
若い女の店員だった。
朝っぱらからこんな格好でビール買って、何なんだろうこのおっさんと思われてんだろうな。
「温めますか?」
目も合わさずに尋ねられる。
「いや、いいです」
冷たいもんだけ入ったレジ袋を受け取った。
ナカタは袋を受け取ると、コンビニを出る前にビールを開けて飲みながら外に出た。
我ながらさすがだと思った。
そのまんまコンビニの前でもう一服する。
ビールも不味くはねぇけど、なんかもて余すなぁ。
朝から変なもんばかり摂取してるせいか、いまいち気持ちよく飲めない。
煙草をすり消した。
さてと、戻りますか。
ビールを片手に、ナカタはまた駅の方へと歩き出す。
おいおい、ほんとかよ。
さっきまでいなかったじゃねぇか。
駅前に着くと、弁当売りがいた。
素朴なおっさんが首から弁当の載ったカートをぶら下げて立っていた。
冷たいコンビニ袋が痛い。
小さいのぼりにしめじ御飯と書かれていた。
まぁ、食えねぇから良いか。
カートには勿論幕の内もあったが、突っ張ってスルーした。
それでナカタは大月駅の構内へ戻った。
富士急行という路線を利用する。
また電車だよ。
まぁ次が最後だけどな。
河口湖駅まで行けば、そこから鳴沢村までは歩きで行くつもりだった。
携帯で周辺の地図を検索する。
河口湖駅を中心とした地図を引きで見ると、端に鳴沢村と表示されていた。
結構な距離だな。
ゲンナリする。
そういえばとっくに会社は始業している時間だが、誰からの連絡も携帯に入っていなかった。
体調が悪いのを真に受けて信じてくれているのか、月曜だからかったるくってサボってるぐらいにしか思われてねぇんだろうな。
こんなとこに来てるなんて、まさか夢にも思わねぇだろうな。
まぁ俺なんか誰の夢にも出てこねぇけどよ。
改札前で残りのビールを無理矢理流し込むと、ナカタは停車している河口湖行きへ乗り込んだ。
大月駅から一時間かけて河口湖駅へ電車が向かう。
ここまでくると、もう他に同じナリをしている人間もいねぇわな。
そんな事にも、然程気にならなくなったけど。
ナカタは四人が二人ずつ向かい合って掛ける一角を一人で利用していた。
空いてるからね。
じゃなきゃさすがにやらねぇよ。
向かいの座席に足を乗せて、さっきコンビニで買った袋の中身を太ももの上に置いて並べた。
割り箸で米を摘まむが、その時点で固さが伝わってくる。
構わず口に突っ込むが、やっぱ味気なかった。
空腹なんで不味くは思わないが、これじゃない感が脳から溢れ出ていた。
ナカタはだらしなく無表情で箸を動かしながら、遊んでる左手で携帯を弄った。
家を出てからずっといじってたんで、電池の残りが半分になっていた。
「楽な自殺」
という言葉を打って検索した。
自殺をすすめてたり、止めようとしてたり、色んなサイトが混ぜ物みたいに広がっている。
ナカタは何度か見たことのあるサイトへ飛んでみた。
「自殺は最後の手段です。こちらで掲示している情報は、決してそれをすすめる為のものではなく、そういう手立てが選べる事をもって、死ぬ事はいつでも選べるんで、一旦それはおいといて、今より前に進む方法を考えていただきたいと、管理人からのそんな切なる願いがこめられております。」
というような文句が先に走っていた。
言ってる事は分かるんだけどね。
多分本心だと思うし。
俺の場合、もう凝り固まっちゃってどうしようもねぇって確信しちゃってる自分がね、すぐに俺を支配しちゃうんだよ。
だからいい加減、そんな自分を殺してやるのよ。
だからこれは自殺じゃねぇんだ。
自分でも思ってる事がムチャクチャだったのは分かっていた。
ただ昂ってくるのを抑えられなかった。
おちゃらけてその場をやり過ごせる俺は、普段全然出たがらない。
いつも卑屈で陰気な俺が真ん中にいる。
そいつのせいで今があるなら、やっぱり俺がやるしかねぇのよ。
貧乏揺すりしながらそんなムチャクチャな道理をもって、そのうちウイスキーを煽りだして、しばらく自分を鼓舞していた。
※上記一切は創作につきフィクションです。