その電話が鳴った時、私は持ち場にいなかった。
少し離れた場所にある事務所にいた。
その電話を取ってあげられたら良かったと
あとで何度も思ったが
そんなことは今さらどうしようもないことだ。
事務所を後にして、持ち場に戻ると
T班長とFさんが待っていた。
「電話鳴ってたよ、ね?」
T班長がFの方を見る。
「はい、私の携帯じゃなかったんですよ」
私の携帯が鳴ることは珍しい。
いつもは音を消している。
そして、ほとんど着信がないからだ。
どうでもいい電話だろうと思ったが
余裕のある時間帯だったので画面を確認する。
旦那からだった。
「旦那からでした」
どうでもいい話だが、T班長とFさんに話しかける。
「そうなんだ、なんだろうね」
「かばんの中で電話かかっちゃうことありますもんね
この間もそうだったんですよ」
「あるあるー笑」
「ちょっと電話してきます」
電話をかけるとつながらない。
やはり、かばんの中で着信履歴からつながってしまったのだろう
そう思っていた。
だが、しばらくすると携帯が鳴った。
旦那からだ。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない!ぁあああああああ」
一瞬、ふざけているのかと思ったが、それが嗚咽だと気付くのに
時間はかからなかった。
「うわぁああああああああ、ごめんなさいいぃいいいい
ママぁあああああああ、(こども)もぉぉぉぉぉぉおおおお
ごめんなさいいいい
○○さんを死なせてしまいましたぁあああああああ」
死なせたという言葉をすぐ飲み込むことは出来なかった。
ケガ、大ケガならわかるがそれを飛び越えて「死」?
会社で仕事をしていて人を死なせてしまうことがあるのか
全く状況がわからなかった。