にくのひ
あの日から、私の心に空いた穴からは血がどくどくと溢れていた。
その穴は少しは小さくなったかもしれないけれど、涙が枯れることはない。
その小さな穴ですら風は通り過ぎ、心が揺さぶられてしまう。
ジュニアは透明になっただけ、いつだってそばにいてくれている。
彼を失った、その事実は明らかなのに、認めることが出来なかった。
日はまた昇る、それは希望となるはずなのに、日付が変わっていく、ジュニアがいた日々が遠ざかっていく、そのことに焦りに似た感情を持ったこともある。
その事実に耐えられずに、ずっと『失ったのではない』と思っている。
そう考えるようにして来たし、それを変えるつもりも無い。
変えられるはずもない。
あの悲しく苦しい気持ちから逃れたかったのだと思うけれど、今は、この悲しみを失いたくない自分がいる。
ジュニアがくれた大切な悲しみだから。
まるで小さなボートで嵐の海に放り出されたかのようだった。
ただ、悲しみの激流に飲まれても、私の心は漂流はしても転覆はしなかった。
悲しみを飼い慣らせない焦り、わけのわからない怒りにもがいているうち、10年を超える時が、寄り添ってくれる家族と友が私を助けてくれていたから。
いまは、凪いだ波を操り、自分の意思で舵を取っている。
もし今、どんな不思議な力を持てたとしてもジュニアが生きている時を望むことはしない。
彼をなでたい、彼に触りたい、それはあの日からただいまこの時までずっと続いて来た願い。
でもその幸せを知ってしまったら、もう2度とは立ち直れないと知っているから。










