13話「未来や子孫のための政治」
鬱ノ宮高校の悲劇
第13話「未来や子孫のための政治」
右田核栄とその実子翼。
畳敷きの広い道場に正坐して向き合っている。
「未来や子孫のための政治…だと?」
「御意」
翼は両手をついたまま答える。
「ふふん。何を吹き込まれたか知らんが…よぉく聞け、翼。
ワシは戦前の生まれだ」
「はッ」
「当時の大人どもがワシらに残してくれたものといえば、
焼け野原と瓦礫の山だけだ」
「……は」
「今のこの繁栄、この国富は
ワシの代がゼロから築きあげたものだ。
それをワシらが使い切って何が悪い。
ええ?」
「……」
「未来や子孫のためだと? たわけがッ!
未来は自分の手で掴み取るものだ。
他人の施しなどハナから当てにするなッ!」
「はぁッ!」
翼は平伏した。唇をきつく噛み締めながら。
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逃田が化学部の生徒を前に言う。
「いいですか~。 優先順位の第1位は、
君たちの被曝線量が限度を超えないことですぅ。
事故の収束は第2位に過ぎません~。わかりますかぁ~?」
化学部の部長、2年生の松本が言う。
「あ、あの。今まで絶対安全だと言ってきた、
僕たちの責任はどうなるんでしょう?
チェルノブ○リでの兵士たちのように、
命をかけてでも止めるのが人類に対する責務ではないんですか?」
「いいえ~。
コレは電力の供給を受けてきた、
鬱高生全員が等しく背負うべきものなんですぅ~。
我々だけの責任ではありましぇ~ん」
何か失政をやらかしても、
被害者のほうに逆に責任を転嫁する…
「騙されるほうも悪い」
「選挙で選んだ有権者が悪い」
「風評被害は買わない消費者が悪い」
「今まで電気を使ってきたほうも悪い」
鬱高指導部の十八番、責任逃れの常套手段だ。
生徒同士をいがみ合わせておけば、文句は上に向かわない。
反抗する勇気のない生徒は、簡単にこの策に引っ掛かる。
逃田が念を押す。
「いいですかぁ。我々の使命は、
放射能漏れを死んでも止めることではないんです~。
やれる範囲で、可能なことをやればいいんですぅ」
トップが現場に決して近づかず、現場に補充はなく、
こんな士気で、惨状が短期に収束するはずもなかった。
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新聞部の部室。
いつも通り部員は2名しかいない。
「緑子ちゃん、あたしやっぱり理事長を目指すよ!」
「なんだ突然」
「あたしが理事長になって、鬱高の進路を途中で転換させる!
それって2671年間、誰にも成し遂げられなかったことなんでしょ?」
「ん? ん。…ああ」
緑子はシュークリームを食べながら面倒そうに答える。
「そうだなぁ。
幕末しかり、終戦しかり。
我が高は一度どん底まで行かないと
方向転換がきかない」
「うん」
「しみついた百姓根性のせいなのか、
いまだに領主様には否と言えんからの。
お上と共倒れになるまで盲従し続けるだけじゃ」
「…そんなの嫌だよ。 あたしが止める。
NOって言ってみせるよ。 どん底なんてイヤだもん」
「ふぅん。 無理だと思うがの…
まあやってみるがよい」
「うん、やる。
どんな立場だろうが、
いいものはいい、悪いものは悪いんだよ。
それを言う勇気がなかったら、
せっかく知識を持ってる意味がないじゃん」
そう言って七雲は珍しく決然とした表情になった。
そして…運命の朝を迎える。
このブログは原発に反対する立場から書いた、ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
(おまけ)鬱高とNIPPON
緑子: 原発存続論者には、
「子供たちに安全な国土を残す」
という視点が希薄なように見えるのじゃが。
七雲: 雇用、電気料金、スポンサー、補助金、地方財政、景気浮揚…
そういう金銭的な「大人の事情」が 子供の命よりも大切なんでしょうね。
緑子: ドラマでも漫画でも、
大人の事情を振りかざす大人に ロクなキャラはおらん。
七雲: まず真っ先に 子供の事情を考えて欲しいものですね。



