9話「モラルの低さは筋金入り」
鬱ノ宮高校の悲劇
第9話「モラルの低さは筋金入り」
今から5年前。
当時のワンマン理事長、
右田核栄は一人の男の子を連れていた。
「緑子様。この子は右田翼と申します。
本日鬱ノ宮の初等部を無事卒業いたしまして、
この度ご報告に伺いました」
緑子、と呼ばれた少女は横柄に頷く。
鬱高の最高権力者である核栄が
一介の女生徒に敬語を使うというのも妙な話だ。
だが、少女にはそうさせて不思議無いだけの迫力があった。
「子か孫か」
緑子は敬語を使わない。
「恥ずかしながら実子にござります。
他の兄弟とは異母弟にあたります」
「ふん。 奥方が健在なのに異母弟か」
緑子は不機嫌そうに言った。
「貴様ら指導部の、その手のモラルの低さは筋金入りじゃの。
まったく、2000年来そんな奴ばっかりじゃ。
自分の管理もできん者に、どうして人様の管理ができよう。
恥を知れ、ハゲ」
「面目次第もございません」
核栄は縮こまって答える。
そんな父の姿を、小学校卒業直後の翼は呆気にとられて見ていた。
「…ん。 まあでも子供に罪はないか」
緑子はそう言うと、翼の顔をのぞきこんだ。
「よろしくな、坊主」
「……はい」
翼はおずおずと答える。
「綺麗な顔をしておるな。母親似…か?
良かったな、父に似なくて」
「……」
「つばさ、と言ったか。
父はどうでもいいが母上は泣かせるなよ」
「……はい」
「ははははっ
核栄、貴様に似ず素直そうな子じゃ。 うまく育てろよ」
「はっ。 厳しく帝王学を仕込んでいきますゆえ」
「阿呆。 逆じゃ。
貴様のようにするな、と言っとるんじゃハゲ」
緑子は翼のもとを離れると、椅子に戻った。
「ふん。 トップの世襲か。
まったく、せっかく民主主義の世になったというに、まるで大名じゃな。
下々にしみついた百姓根性は100年経っても抜けないようじゃの」
翼は呆然と立ち竦んでいた。
驚嘆したことが同時に三つもあったのだから。
一つ。 常に暴君だった父が初めて見せる、そのへりくだった姿。
二つ。 父が唯一かなわないらしいその少女の、一種異様な迫力と美しさ。
そして…三つ。 核栄のデスクにただ一つ置いてある古い写真、
その写真に若き日の核栄とともに映る少女が、目の前の少女と瓜二つであること。
…鬱高の歴史とともに生き続ける不死の少女…
翼はその伝説を思い出していた。



