彼女を見つけたのは、家から200mほど離れた公園だった。
彼女を落ちつかせて自宅に連れて帰り、そのまま知人が経営する信頼できる専門病院に彼女をしばらく預けた。
長男は、父方の実家に連絡して引取ってもらったが、引取りに来た友人の兄夫婦は「こんな事になって、お腹の子はもう始末する事はできないのですかねえ?」と顔をしかめて私に相談した。
「それは、Tさん(友人)の決める事ですから」それだけを言うと、私はいたたまれなくなってその場を離れた。
友人は、帰国後にどうこの奥さんと向き合うのだろうか、男の身勝手さが出るのか、それともTさんの心には彼女を心から愛する気持ちがしっかりと育っているのか、こればかりは、今までの日々夫婦としてどう生活してきたのかにかかっているわけで、僕には分かるはずも無い。。。。
ただ、少なくても僕がどうこうと口出しをする事はできないと言う事を肝に命じた。
彼女が入院して10日後に、Tさんが一時帰国した。
「先生、本当に色々とありがとうございました。本当に助かりました。妻の入院先の先生もすごく良い人で。。。ともかく、産ませます。」
「分かってたんです・・こうなる事は・・でも、確実にこうなるとは決まった事ではなかったので、二人目の妊娠は賭けだったんです。」
彼女の家系は、二人目の妊娠をすると、ホルモンのバランスを異常に崩す体質らしく、彼女のお母さんも、お祖母さんも、またお母さんの姉妹のウチ半分の人も、同じ症状が出たそうだ。
「僕が、結婚の申込みに行った時に、父親に陰に呼ばれ、うちの娘と結婚して幸せな生活を維持したいのなら、二人目の子供だけは作らないで欲しい。と言われていたんです・・・」
「昨日、実家に行きました。実家からは、離婚して実家に戻せば、長男の面倒はきちんとみてあげる。ともかく離婚しなさい。こう言われました・・・」
彼の次の言葉を待ちながら、心臓がバクバクして痛いほどだった。。。
「先生、わたしは別れませんから。親族とは疎遠になる事は分かってます、でも別れません。ほとんど家庭に居ない私の留守をいつも明るく、しかも文句一つ言わずに、守ってくれたんです。彼女は家族をすごく大切にする人で・・・そんな彼女を捨てるなんて出来ません」
最後の言葉は、涙声で震えていた・・・
僕まで泣くわけにはいかないが、友人として男として、彼の決意は誇らしいと感じた。
その日、僕は彼に、医師として一個人として出来る事は何でもするし、協力するから、是非1人だとは思わないで欲しい旨を伝えた。
その後、彼女は第二子を無事に出産し、僕が薦めた手術を受ける事で、すっかり元の彼女に戻る事が出来た。
「先生・・・私、何も覚えていなくて。。。夢の中にいた様な気持ちです。気付いたら家族が4人になっていて。。。でも、沢山の友人を失くしました。私、沢山の人に迷惑をかけたみたいで・・・」
「もう、何も考えるのはよしなさい。人間は欲張って沢山のモノを抱えすぎていては、本当に大事なものを見失うんですよ。」
「今残っている友人が、本当に付き合うべき人です、あなたが選んだ友人ですから大切になさい。」
「そして、何よりも、あなたのご主人は、本当にあなたを心の底から愛している。この事実だけで良いではないですか。 あなたが、ご主人から受けた愛に対する感謝の気持ちを忘れない限り、あなたは一生幸せな結婚生活を送れますよ。安心して子育てしましょう・・・」
今でも、彼女はご主人とそして成人した2人の子供と共にとても幸せに暮している。
男性から揺ぎ無い気持ちで愛され続けるには、不平不満で心を満たさない生活を淡々と繰り返すことだ。
「パパが疲れないように」と気遣い、自分の事を後回しにしていた彼女だが、けして大人しい女性ではない。
むしろ活発で、自分の意見はしっかりと夫に伝えていたし、我侭な面が無いわけでもない・・・
ただ、夫のコンディションを読んで、文句を言ったり、わがままを言ったりする女性なのだ。
仕事が佳境に入ったり、疲れている様子を見ると、彼女は「パパが疲れないように」を口癖にして、自分の事を後回しにしていた。
そして、人には「夫はよく私の我がままに付き合ってくれるわ~」こう公言してしまい、夫の悪口は言わない。
男が与える本物の愛情を育てる栄養素は、女性だけが持っているのだと、つくづく感じる。
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このお話を書いた理由
私は医師という仕事を通して、多くのご夫婦やカップルに、互いの肉体を寄り添える時間は、もう限られている事を伝えてきました。
「もっと早いうちに、きちんと2人の気持ちを向き合わせておくべきだった」どの方もそうお話され、行過ぎてしまった時間を恨めしく思い返します。
どうか皆さんも、「明日でも出来る」と言わずに、今、この時を無駄にしないようにパートナーと向き合う事で、心の絆を強くしていって下さい。
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