まだオープして間もないお店は、入り口のドアを開けると、木の匂いと新しい匂いがしていた





「そんなに派手じゃないけど、おしゃれで落ち着くね♪」



「うん…広すぎ無いのもいいかも。」




私達は、案内された席に座り、店内を見渡した


席は全てが埋まっている
会社を出る時に、夏季が電話で空き状況を確かめ予約してくれてて良かった



私達は、店のおすすめのパスタ料理を注文し、程なくして運ばれてきた







「そう言えば、佐藤くんとは…どう?」



「…どう…って?」



私の問いかけに夏季は、パスタをクルクル巻きながらキョトンとした顔で口に頬張った



「…うまくいってる…のかな…って………」






「ま、それなりに……付き合ってるからって、いつも一緒って分けじゃないけど…仲良くやってるよ……
それより、そっちはどうなの?上手くいってる?」



「えっ……ん、まぁ………」




「ふぅ〜ん・・・なら良いんだけど………」



夏季は、私の心を探る様に私の顔をのぞき込んだ

そもそも、私が岡田課長と付き合っている事は内緒にしているから、話せる事が無くて困る…




「………あ、このケーキ美味しそう …デザートこれにする?……」




私は、ちょっと焦って視線を逸した先にあった卓上ポップを夏季の目の前にかざした




「…………」



夏季は何も言わずニコッと笑うと呼び鈴を押した






私…何を焦ってんだろ?



自分でも分からない…



ただ何となく、ざわつく………




ざわつく……




ざわつく…


……………。










その後、夏季と他愛のない話しをし
美味しいケーキを口に含むと少しだけ心が軽くなった。









「私、ちょっと本屋さんに寄ってくから…」



「そ…じゃ…また明日ね」





今日は、本でも読まなきゃ寝られそうも無いと思い、夏季とは、近くの書店の前で別れた




(どれに…しようか…な…)




なんのあてもなく…小説の棚の前を
背表紙を撫でるように視線を滑らせた





「あ、これ…准一さんが読みたいって言ってた………」




ふと視線が止まったのは、彼が探していた本のタイトルだった



私は、迷わずそれを購入した




(ふふ…准一さん喜ぶよね♡…あ、でも、
先に読んじゃおう)





心の片隅の不安に蓋をするように、彼の好きな本を購入して店を出た







(どうしようかな……もう帰ってる頃かなぁ…?)





彼にLINEする口実が出来た…と思い、スマホをバッグから取り出した



(別に…帰ってなくても、いいよね…准一さんが探してた本を見つけたから、ダブって買わないように伝えるだけだから…)





彼に、探していた本が見つかった事…

それを買ったから、今度、持っていく事…

その前に、先に読んじゃう事……

いつが良いか…




文字を打って・・・送信!







(さて…早く帰って読もう)



買ったばかりの本を抱きしめ、駅に向かって歩いていると、タクシー乗り場に見覚えのある人が………





(えっ!……うそ………)






見覚えどころか、よく知った顔………



そして…今、凄く会いたい人の顔だった……



私は、一瞬息が止まり
咄嗟に手前の建物の陰に身をかくした




(だ、誰?……一緒にいる人は……)




彼は一人では無かった


女の人と、小さな子供もいた………




壁に背中を着けて、目にした状況を把握しようとするけど…思考が止まってしまった




(そうだ!…見間違い……きっと人違いよ…)




やっと動き始めた頭の中で、見間違いの可能性が急浮上し、もういちど確かめる為
建物の陰から、のぞき見た………




(やっぱり…准一さんだ………)





すると、彼らの前にタクシーが停まりドアが開いた


そして、女の人と子供が乗り込み、それに続いて彼が乗ると、ドアが閉まり、行ってしまった・・・
















(本屋さんになんて、寄らなきゃ良かった……)






(そしたら………こんな思い……………)









私は、思考が止まったまんま朝を迎えた………

寝たのか…

眠れなかったのか……分からない。