〔元旦…神社にて〕
混雑を避け喫茶店でゆったりとした時間を過ごし、改めて並んだ拝殿への道
まだまだ参拝客が列を成しているものの
他人と密着する事は無く、足はゆっくりだけど、前に進んでいた
「時間、ずらして良かったね」
准一さんが、チラッと視線を向け右口角を上げて微笑んだ
(少しの時間のズレでこうも違うんだ…)
周りを見渡して
「ホント、正解だったね…」
と、返事をした後…彼の腕に自分の腕を絡めた・・・・
時間…タイミング…
ほんの少し…ズレただけで、生活が一変してしまう事が有る
あの時もそうだった…
あの時、あの場所に
行く時間がズレていたら、あんな悲しい思いをしなくて済んだかも知れない…
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付き合い始めて8ヶ月が過ぎた秋・・・
時々、冬の予告編のように冷たい風が頬をなでる頃だった・・・
「ねぇ…なごみ(和)」
「ん…なに?」
「駅前に新しく出来たカフェに寄ってかない?…食事が結構美味しいらしいよ…」
退社時間になり、デスクの上のノートや資料を片付けていると、同僚の夏季から誘われた
「ん〜……どうしようかな……」
そう言いながら、チラッと彼の方を見ると、そそくさと帰り仕度をしていた
(そう言えば、准一さん…今日は用事があるって言ってたっけ………)
「もぉ〜たまには付き合いなさいよ!
それとも、今日も彼氏と?」
「…えっ!?……今日も、って…
そんな毎日じゃ無いから…
それに…今日は、約束してないもん…」
「じゃあ、OK?…」
「ん…うん。」
そう返事をしたタイミングで、佐藤君が彼に(岡田課長)に声をかけた
「課長!…今日、これから飲み行くんですけど…どうですか?」
と、右手でジョッキを傾けるジェスチャーをした
「あ、…今日は、ちょっと外せない用が・・・
わるい!また誘って……」
彼が両手を合わせて、“すまない”答えると、佐藤くん達は、残念そうに出て行った
私が入社した頃は、無愛想だった岡田課長は、最近では“気さくで、思い遣りのある上司”として、部下からも慕われる存在になり、男性社員から、度々飲みに誘われるようになり
誘われれば、極力付き合うようにしていた…
私との時間を過ごすのは、その予定が無い時…
なのに、今日は誘われたのに、断った
もちろん、私とでは無い!
“用事がある”って事は聞いていたけど、その内容までは知らない…
今朝のLINE・・・
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〔夜…どうする?
准一さんがこっちにくる?
それとも、私がそっち行こうかな?♡〕
〔ごめん…今日はちょっと、用事があるから、行けない〕
〔そっか…残念(ˊ• •ˋ)シュン〕
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理由を尋ねれば良かったのだけれど、こんな時、「どんな用事?」って聞くのも気が引けてしまい、理由はわからないままだった…
しかも、彼からはそれ以上何も言ってくれなかった。
(ま、用事が終わってから、話すつもりかもね…)
「なごみ〜、ほら…行くよ♪」
「うん…」
私は、少し気がかりが残りつつ、彼の方を見ると、まだ書類の整理をしていた。
「課長、まだ帰らないんですか?…
用事が有るんじゃ…」
と、夏季が声をかけた…
「…あ、もうこれ、片付けたら…………」
そう言いながらニコッと笑うと、ファイルを引き出しに閉まった
「そうですか…それじゃあ、お先にしつれいします。」
「お先にしつれいします。」
先に行く夏季の後ろに着きながら、振り返ると…
「…気をつけて帰れよ。」
少し首を傾げ優しく微笑んだ彼の目が
なんだか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?