2000年の後半、英国に住み始めていた私は古巣の「都庁舎が雨漏りしている」というニュースを日本に住む知人からメールで知らされた。都庁の雨漏りは、新聞記事でも採り上げられていた(下図)。


矢印のある32階ノッチ直下に職員食堂

1)新築15年を経た都庁舎で深刻な雨漏りが発生した。
2)補修費用は、1,000億円(建設費にも匹敵)かかる。
3)10年ごと、同じ規模の補修が繰り返し必要となる。

新聞記事を要約すると、以上の通りである。言い換えると、都庁舎は10年ごと建て替える経費に匹敵する予算を計上していかなければならない宿業が明かされた・・とも言える。確かに、威風堂々の立派な外見であるが、未来永劫に禍根を残す負債とも言える。

しかし、新聞記事は淡々と「事実を記す」のみで、「何が原因となっているのか」には触れてない。議論の片鱗すらない。そこで、私は「科学する」力をもって隠されたえの候補(=答案)を「類推する」ことをしてみたい。スーパーサイエンスコースで進める教育は、これまでのような「科学」の結果である断片知識を教えるのでなく、「科学する」コツを伝授していくことなのだ。「正解」が見つからない問題こそ、恰好な「探究学習の素材」である。

先ず、私は雨漏りの発生箇所の一つに注目した。第一庁舎32階北側・職員食堂の天井部である(Webニュースから)。建築デザインに着目すると、タテに長い切れ込みがあり、その最下端に位置する。私は都庁舎の落成直後に入居した組であるが、雨足の強い雨が斜めに降ると外壁や窓ガラスを滝になって水が流れていく光景を目撃した。完全に段差のないフラシュサーフェスな構造であれば、一気に地上まで流れ落ちて、地下ダムに蓄えて雨水利用ができる(私は豪州からのLeonie Crennan女史を水リサイクル施設を案内した)。森林と同様、高層ビルも"harvesting"施設として転用できるのだ。そして、森林と同様、太陽と水が降り注ぎ、土埃と一緒に飛び交う”生命のタネ”が降る。

北側で雨樋のような切れ込みの最下端、降下物の受け皿となるノッチ・・。イタリヤ直輸入の大理石を張り詰めた外壁。そこには当然、継ぎ目がある。新築から15年の風雪に耐えながらも継ぎ目に間隙が生じたかも知れない。Wikipediaには「都庁舎における雨漏りは、エキスパンション・ジョイントの劣化や施工不良によるコールドジョイント(コンクリの接続)が主な原因である。」と記載されている(「東京都庁舎」で検索した記事)。これが公式見解だったのだろう。

果たして、物理化学的な風化による劣化や施工ミスで説明できるのであろうか? 10年ごとに繰り返し補修が必要になる、そのような「反復性」を生み出す要因とは何なのか? 設計・施工者の盲点となった、そんな「想定外」の問題はなかったのだろうか?

元都庁職員とて私も正解を知っている訳ではない。だから、私の推論結果が正しいと主張するつもりは毛頭ない。あくまでも「仮説」である。しかし、私は「科学する」経験から得た予見力、「探究学習」を指導する者として類推力で推定したい。安全帯をつけて室外へ出た作業員は、そこで可愛い犯人を目撃しているはずである。私の解いた答えの候補案は・・明日(竹内)。