ゾウリムシは空を飛ぶ! これが、タイで私が気づいたことである。ちゃっかり渡り鳥の足について移動するヤツも居るかも知れないが・・。教科書には書かれてはいないが、これが私の見解である。

高専勤務2年目、「どうしても森林を仕事にしたい。」という女子学生が卒研で私の研究室に来た。逡巡したが、私も理学部生物学科で生態学の野外実習を経験しているし、森林生態学分野での知り合いもいる。「環境生物学研究室」の看板も掲げているし、何とかなるか・・と了解した。彼女の前途多難となるであろう進路の行く末を内心、案じながらも・・。

広島へ来る前に信州で林一六筑波大学名誉教授の方と中学生の野外活動でご一緒したことがあるが、斜面を駆け上がる元気さに驚かされたものだ。同時に研究室に来た男子卒研生3名も同行してもらってのフィールドワークだったが、若い男子学生も音をあげていたものだ。年齢的に私も、森林調査はこれが最後だと決めていた。

ウバメガシの自然林(神社林)にはイノシシが棲み、コードラート区画の硬いトラ・ロープが「縄張りだ!」と言わんばかりに噛み切られていた。薄暗い午後は「もののけ」の時間だ。疲れて林床部に座って一休憩している間、ふと上を見上げた。大きな樹冠がある。太陽光線を受け、雨水を受け、樹木の生育に必要な太陽エネルギーを雨水を収穫する(文字通りに英語では"harvest"と呼ぶ)。

タイでのゾウリムシの記憶(12年も前のこと)が脳裏に甦り、ロートと瓶を林内の樹木にぶる下げて、林間を降る水滴(林間雨)を集めてみることにした。これは、風で飛ばされてきた微小生物のタネが森林の樹冠部に一旦、捕捉され、雨で洗われて落ちてくる生命の素の輸送ルートがあるはずだと閃いたことによる。果たして、瓶に捕集された雨水からは種々雑多な微小動物が発生くることが判明した。当然、(後ほど)学校の敷地内のさら地で集めた雨水の比ではなかった。

かくして森林には、①太陽エネルギー、それと②雨水、だけでなく、第3の役割、③生命の素も風で運ばれ、樹冠で捕捉され、雨で林床部へ落とされ、湿った土壌中で保存される・・という、それまで見えなかった保管・移送ルートがあることが判明した。



森林の周囲はマント群落に囲まれて乾燥しにくい構造となっている。そのため光が内部まで届きにくく、風も吹き抜けにくい構造をしている。その結果、林床部の土壌は常に湿っていて、土壌からはトレハロースなど生物を乾燥から保護する成分を生合成する土壌細菌も見つかっていて、情報を紡いでいくと、森林土壌は微小生物の"nursery(保育室)"となっている可能性がある。

大雨が森林に降ったら、土壌の一部は林外へ流出(run off)し出し、そこに生息していた微小生物も水路に流れ出し、川へ接続する。物質(元素)循環ほど顕著ではないが、微小生物も一部、自然界を循環しているような気がする。そこに第3の森林像を描き出すことができるのだ。

私は素朴な疑問を長いこと抱いてきた。なぜ川に棲む生物が大雨で海に流されてもいなくなってしまわないのだろうか? そして、なぜ淡水に棲む微小生物と同じ仲間が、土壌でも見つかるのだろうか?

学校では直ぐ「正解」を求めさせ、考えた結果が規定の「正解」でないと「不正解」とされる。これまで私は排除されてきた人材の中に、むしろホンモノが隠れている気がしている。私は大阪校で、そのような埋もれた宝物のような生徒を発掘していきたい。そして、頭の片隅に「問い」をぶる下げて5年でも、10年でも温めて行ける・・そんなホンモノの生き方を伝えたい(竹内)。

付記:文中に登場した森林生態学を専攻した女子学生ですが、農学系の学部・大学院と進学した末、林野庁に採用されました。私の研究室が起点でしたが、大学の先生方に引き継いで戴き、夢のバトンを繋いで戴けました。教え子の夢の実現には心底、励まされます。同時に学校教育は”リレー”だと気づかされますので、受け取る側も粗末に扱えません。