昨年から、スーパーサイエンスコースの生徒(現2年生)が各種の果物の表皮から集積培養して得た酵母を収集している。ふつうはコレクションした酵母は斜面培地(スラント)に移植して乾燥を防ぎ長期保存するようにしている(これは、細菌の菌株保存に準じた操作である)。

ところが、放置してシャーレの寒天培地をパリパリに乾燥させてしまうミスを犯しがちで、寒天が縮んでフィルム状にまでなる。こんな場合、持続発展教育(ESD)を掲げる本校ではガラス製のシャーレを用いているので、大きな鍋で廃棄培地として煮込んでから処分し、シャーレは繰り返し再利用する。

ある日、鍋に浸した寒天フィルムが水を吸って「元通り」の柔らかな寒天状に戻っていることに気づいた。なるほど寒天は海藻の成分だから水分の出入りで乾燥と膨潤を繰り返すことは理解できる。しかし、寒天の上に生育した酵母の細胞はどうなのだろう? 寒天と同様「元通り」になるのだろうか?

ふつう、こんなこと確かめようとはしない。本来の研究を先へ進めたいからだ。第一、内生胞子を作らない細菌の場合、培地が乾燥してしまったら(蘇生させるのは)絶望的である。

だが、新1年生が加わって、「乾燥しても生きる生命」が気になっていた。それに、果物の表皮に着生している酵母って、どこから来るのだろうか? おそらく果樹園の土埃が風に舞って飛来してくるのであろう。それならば、乾燥に耐える性質(乾燥耐性)を備えているに違いない。

新1年生の河脇凌くんに頼んだ実験は、極めてシンプルな操作である。パリパリに乾燥した寒天培地のシャーレに滅菌水道水を注ぐだけ。そして膨潤化した培地上に残った酵母のコロニーの一部を掻き取り、新しい寒天培地に移植することであった。

その結果は、果たして試みた乾燥済み酵母の救済率は、何と100%であった。今まで諦めて廃棄してきた菌株の大半も、おそらくは生きていたのだろう。

酵母が脂質成分に富むことも背景にあるだろうし、寒天上でゆっくり自然乾燥したことも有利だったのかも知れない。また、乾燥耐性を持つ系統は乾燥酵母(ドライ・イースト)として商品流通上の有利であり、発酵食品の分野で応用されていく素地があるだろう。

筆者は長年、細菌を扱ってきた常識に囚われてしまっていて、フリーズドライならともかく酵母が自然乾燥させても保管し、復元できる可能性には考え及ばなかったのである。今回の予備実験を機に、私の中で酵母に対する認識が一変してしまった。つまり「乾いたら死ぬ」から「乾いても死なない」へ(竹内)。



左:パリパリに乾燥した状態、 中:滅菌水を注いで膨潤・分散、 右:新たにコロニー形成