その日、僕は台所の隅で埃をかぶったカップ麺を見つけた。赤いパッケージに派手なフォントで「濃厚味噌」と書いてある。
なんだかやけに自信満々な感じがした。僕はそれを手に取り、キッチンのテーブルに置いた。午後3時27分。特に理由はない。
ただ、その時、何かを食べるのが自然な気がしたのだ。
やかんに水を入れて火にかける。ガスの火が静かに揺れて、水はしばらくしてから小さな音を立て始めた。
シュワシュワ、ゴポゴポ。僕はその音が嫌いじゃない。僕の人生には、時々そういう「意味のない音」が必要なんだ。
カップの蓋を開ける。中には、乾燥した麺の塊と、小さな袋が三つ。粉末スープ、かやく、液体スープ。それぞれが、まるで無口な登場人物のようにそこにある。
僕はかやくと粉末スープを先に入れて、液体スープは蓋の上に乗せた。温めるためだ。そう書いてあるから。
お湯が沸いたので、それを丁寧に注いだ。麺の上に。ジャズを聴きながら。ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』。
麺とジャズ。どこか、しっくりくる組み合わせだ。
三分間、僕は本棚から適当な本を取り出し、最初のページをめくったけれど、内容は頭に入らなかった。
仕方がない。こういうとき、頭は食べ物のことでいっぱいになっているのだ。
タイマーが鳴った。僕は静かに液体スープを入れて、箸でゆっくりとかき混ぜた。すると、ふわりと味噌の匂いが立ち上った。
それは、子どもの頃、母が台所で味噌汁を作っていたときの匂いに少し似ていた。
僕はそれを啜った。舌に少し熱すぎたけれど、悪くなかった。悪くないというのは、僕にとっては最大級の褒め言葉だ。
僕はそうやって、カップ麺を食べ終えた。そして少しだけ、人生がうまくいくような気がした。
