カップ麺の作り方。
深夜零時過ぎ、六本木の裏路地は、雨に濡れてまだらなアスファルトが黒く光っていた。
氷室はマンションの一室に戻り、ジャケットをソファに放り投げた。
ホルスターから抜いたSIG SAUER P226を、テーブルの上に置く。マガジンを抜き、残弾を確認。7発。
「その前に、メシだな」
キッチンの棚を開ける。赤いカップ麺がひとつ。
「濃厚味噌ラーメン」。
どこか場違いなほど、ポップな書体が目についた。
女はいない。温もりもない。
だが、この即席麺だけが、まだこいつを生きた人間に繋ぎとめていた。
やかんに水を入れ、火にかける。
熱くなるまでの時間、氷室はタバコに火をつけた。
煙の向こうに、さっきまでの銃声がちらつく。
奴は確かにこちらに向けて引き金を引いた。迷いもなく。
つまり次はこっちが引く番だ。
湯が沸いた。
麺の上に一気に注ぐ。蒸気が顔を撫でた。
粉末スープと乾燥具材。
それから、液体スープは蓋の上。
時間は三分。だが、街じゃ三分あれば人は死ぬ。生きるためには、それでも待たなきゃならない。
三分後、静かに蓋を剥がす。
麺が柔らかく膨らみ、香りが空腹の腹を撫でた。
液体スープを入れ、かき混ぜる。少し乱暴に。
一口啜る。熱い。だが、それがいい。
この一杯は、どこかにまだ人間としての温度が残っている証だ。
「終わったら、また食おう」
氷室は容器をゴミ箱に放り、ジャケットを羽織った。
テーブルの上のP226を手に取り、マガジンを戻す。
街は眠らない。
そして、麺もまた、眠らせない。
冷たい都市の夜、アウトローと捜査官のはざまで揺れる男。
食事は儀式じゃない。戦う前に胃に突っ込む燃料だ。
それでも、そこにわずかな人間のぬくもりがある——それが、大沢在昌の世界だ。
