「准君の生まれ育ったおうち?」
静かな夜に浮かぶ月のような声
「ん」
「……」
澄んでいるのに深すぎて底の見えない湖のような目
俺の真意をはかりかねてるのか
「何もないとこだけど…」
本当に何もない
普通に家が立ち並んでいて
学校や図書館やスーパーがある、人が生活している町
彼女の瞳に、少し不安そうな俺がうつっている
「……」
何を考えてるんだろう
俺は女性の気持ちに疎いらしいから、いまいち思い浮かばない
誰かに見られたらまずいとかか?
あ!
「母親には言っておくから」
「え?!」
関西のおばちゃんに会うってことで、尻込みしてるんだろ
「あんま突っ込むなって。」
母親はそこまで関西のおばちゃんではない…とは思ってるけど、
関東育ちの彼女からしたら、やっぱり関西のおばちゃんかもしれない
彼女にいろいろ聞いてきそうだよな
「会うの?」
「あ、会いたくない?大丈夫、怖くないから。孫が出来てから、かなりかわって。俺にはすっげー厳しかったのに。今じゃ…え?」
何も感情のよめない鏡のようだった瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた
顔が横向きだから、涙が鼻を超え目尻から俺の腕へと落ちる
「いや、そんな嫌ならいいんだ。無理強いするつもりはないから」
フルフルと頭をふる
わかった
彼の親に会うのは、いろいろ気を使うし緊張するからってことだろ
「ごめんっ、緊張するってことか」
ホロホロホロホロ、涙がこぼれ続ける
熱い雫が何粒も、俺の腕へと流れ落ちる
緊張なんかしなくていい母だし姉だけど、どんな人だとしても緊張するってことだよな
「緊張はすごくすると思うけど、そうじゃなくて」
鼻をスンッとすすったから、枕元にあったティッシュ箱から一枚取って渡す