かすれた声で囁かれた言葉。
ちゃんと耳に録音できた?
思い出せるよね?

「…演技じゃないのは苦手なんだよ…」

後ろから抱かれてるから彼の表情も見えないし赤くなってるかもからないけど、背中に感じられる彼の体温が熱い。

「演技?」

「特典のは演技だから…」

かすれてうわずったようなさっきの言葉。
俳優岡田准一じゃなくてただの岡田准一の言葉。
私だけの特典になっちゃった。

「ありがとうございます。」

胸はいっぱいだけどそれを伝える言葉がみつからない。どうしたら伝えられるんだろう…。
雨はどんどん激しくなってきて、車からマンションの入り口まで傘をさしても濡れてしまいそうなほど。

「雨がもう少し弱くなるまで…」

彼が私の髪に顔をうずめてきた。
後ろから抱きしめられている私。やっぱりなんだか華奢なかわいい女の子になっちゃったみたいな錯覚におちいる。
155cmはあるんだけどな。

「…がんばった俺にご褒美はないのかなぁ…」
背後から耳元で彼がつぶやいた。
ご褒美?
私があげられるようなご褒美?

「…敬語を…やめにするってことでどう?」

絞め技…のように背後から抱きしめている彼の右手が私の左耳を触る。
さわさわやわやわ。
時々髪を引っ張ったり。
耳は…弱いのがバレてる?
左手は左手でギューっとされたままだし、右手は抑え込まれてるからあがらないし。
首をふって逃げようとするけどイヤイヤしてるみたいなだけでまったく逃げられない。

岡「今から敬語禁止で。」

「…そんな急にはできません…」

岡「敬語使った(笑)?」

後ろで顔は見えないのに、彼がニヤっとしたのが感じられた。

岡「敬語使ったら…○○からキスするってことで」

えぇぇぇぇぇーっ((((;゚Д゚)))))))⁈

「む、無理です!なんでそんな…。」

焦る私の耳たぶを楽しそうに触り続ける彼の右手。
握られていた左手はいつの間にかマッサージのように一本一本の指を揉まれている。なんだかいやらしい気持ちになっちゃうよ。

岡「俺だけ恥ずかしいことさせたんだから。ずるいよね?」

そんな理屈あるのか…あるの⁈
悶々とする私。

岡「とりあえずさっき敬語一回使ったから…して。」

どえ~っ((((;゚Д゚)))))))

彼が腕を緩めた。
そーっと斜め後ろに顔を向けると目を閉じた古代ギリシャ彫刻が…じゃなくて整いすぎた彼のお顔。
うわぁ、もう目をつぶって準備OKだーっ!(◎_◎;)

どうしよう⁈どうしよう⁈どうしよう⁈
と真っ赤に熟した私の脳裏に

「…ぁぃしてるょ…」

さっき言われた言葉がフラッシュバック。
真っ赤になった彼の首すじも。

彼を大切にしたい。
いつもがんばりすぎてる彼を甘やかしたい。
少しでも彼に必要とされる人間になりたい。

好きだから。

そっと体をねじって彼の方へむけた。
黙って待っている彼の両頬をそっと両手で挟み込む。
届かない…?
片膝をシートに乗せ背伸びをし、形のいい彼の唇にそっと口付けした。