哀しみ本線ベーリング海23
¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶両方の眉根を寄せ、眉間に深く縦皺を作り、怒った如く、目を真ん丸に見開き、口を顔の半分位までパカッと開き額から数敵の汗を吹き出させながら、自分に向かい、らしからぬ叫び声を上げた親友の顔を見詰めつつあ~あ…折角の男前が台無しじゃないかと、チャンセンは、ボンヤリと思った。「ちょっと待てよチャンセン!!では…なんだ…お前は、なんだ、その、そのっ…そっ、その両班のジイサンと、お前のコンギルがっ、ふっふっ、ふっ、ふふふ!!」「何で笑う?」「ちがっ!!笑って無い!!不義密通してる所を見たって言うのかっ!?」あまりの大声で、ヨンギが喚く物だから、チャンセンは、急いで掌で親友の口を塞いだ。例え陽も暮れ掛かり家路へと急ぐのだろう道行く人々の関心は薄かろうが、矢張り此処は、天下の往来そんな場所で、見目良き両班の若者が、素っ頓狂な叫び声を上げれば、嫌でも悪目立ちは避けられまい。「ばか野郎、お前っ、こんな道のど真ん中で喚くな!!」叱咤しながら、ヨンギの口を塞いだままの格好で、チャンセンは、道の小脇にその身を避けた。「ばか野郎じゃ無いだろう?チャンセン、コンギルは、本当に、本当にその男に…?」塞がれていた手を振り払い、チャンセンの両肩をガッシと掴みヨンギは、思いも寄らなかった話に戸惑っていた。まさかそんな!!まさかまさかコンギルの方に非が有って、それを知ってからのチャンセンの堕落なのか?チャンセンが浮気をしたのだろうと思っていた。チャンセンが、どこかの娼妓と良い仲にでもなって、自堕落な生活を送る様になったのだと思っていた。だが、違った!慎ましく控えめで、家庭を大切に護り、チャンセンを何よりも愛し、慈しんでいる筈のコンギルこそが実は、この男の今の体たらくの原因だったとは! イヤイヤ!!あのコンギルに限ってそれは無い!もしや、退っ引きならない事情が有って、逆らえず、嫌々ながらに為されるが儘になっていたのでは?ヨンギは、チャンセンの肩を掴んでいた両の手に、ギュッと力を込め今、湧き起こった考えを伝えた。が、チャンセンは、ただ首を横に振りながらヨンギを失望させる答えを返した。「嫌々なら、直ぐ様俺が押し入ったさ、だけど、アイツが甘えた様な声で、ジジイと話していたのを、俺は、この耳でハッキリと聞いたんだ。」どうしよう…こんな事実は、想定外だ!!何と言葉を掛け、どう解決したら~(T_T)文字通り、ヨンギは焦っていた。自分の描いた、チャンセンを以前のまともなチャンセンに戻そう大作戦!!が、ここに来て新たなる真実を突き付けられて頓挫してしまったのだ。コンギルが出奔した。今朝、カオクからの伝言を勤め先の漢城府で聞いたヨンギは、近頃の、出鱈目な有り様の伴侶に我慢が出来ず、遂にコンギルが愛想を尽かしたのか?と、思ったがどんな苦境に立たされた時にも、チャンセンだけを一途に愛し、決して側を離れ無かったコンギルに、それはあり得ないだろうと考え直し、ならば、チャンセンの爛(ただ)れた頭を冷やさせる為とか自分や家族の事を、今一度顧みて欲しいとの思いで家を出たのではないか?と、推察してみた。もしや、これはチャンセンの考えや生活態度を、まともに戻す絶好の機会ではなかろうか?ヨンギは、秘かにある筋書きを立てた。壱)ーコンギルを探し廻っているらしいチャンセンと落ち合い共にコンギルを探す。弐)ーその内、チャンセンは絶対に足を向けたくても、向けられ無かったコンギルの実家を訪れる。参)ー確実にチャンセンは追い出される。その時、チャンセンに隠れて自分は、叔父上に逢いコンギルの身の安全の為に叔父上の息の掛かった、補盗庁(ポドチョン)の従事官(チョンサグァン)様に協力して貰いコンギルを探させて貰う。肆)ーチャンセンに、探せるだけ探させ、身も心もクタクタにくたびれさせそれでもコンギルの事を探させる。伍)ーすると、そこに補盗庁に盗みを働いた(ウソ)コンギルが捕まった!と家の使いがやって来る。陸)ー驚き、焦りながら自分とチャンセンは、補盗庁に駆け付ける。漆)ー其処には縄で縛られたコンギルが、盗みを働いた嫌疑で、今正に、拷問に掛けられようとしている(打ち合わせ通りの演技を従事官様にして頂く)慌てふためいて、チャンセンがコンギルを庇う。捌)ーコンギルは絶対盗みを働くヤツじゃ無い!とか、純真な心の持ち主です!とか喚き庇い、それでも駄目ならといっそ、自分こそが真犯人だと訴え出て、コンギルの代わりに自分を罰しろと言い張る。そんなチャンセンの、未だに溢れる深い愛情を知り、コンギルが心を打たれる。玖)ーすると、取り調べ役人が、近頃噂で聞いた、チャンセンの素行の悪さを露呈し、ならば、盗みはチャンセンが首謀したに違いない!!と、今度はチャンセンを取り抑える。拾)ー驚いたコンギルが、チャンセンの無罪を訴え、自分を罰してくれと願い出て、チャンセンを庇う!!チャンセンも、何よりも愛おしく、大切なのはコンギルだと思い直す。そして、今迄の自分の愚行を深く猛反省してコンギルや家族の為に、今度からは、きっと真人間になろう!!と、強く決意する。拾壱)ー二人、手を取り合った時に、私が進み出て、従事官様に打ち合わせ通りに話を進める。晴れて疑いの解けた二人は、礼を言いながら仲良く家路に着く!!それから、チャンセンは以前の様に、一生懸命真面目に働き家族みんなで幸せに暮らしましたとさ~の一件落着の目出度し目出度し(^^)…と、なる筈だったのだ。が、しかし…このままでは、チャンセンを凝らしめると言うのは、どうもお門違いになりそうだし…折角、協力して頂くコンギルのお父上や、従事官様の面目も立たなくなるし…イヤ!!却って、コンギルの不貞を知った叔父上によって、今、以上の波風が立つかも知れないし!!どーにかしなければ!!ヨンギは、親友のチャンセン一家の為に延いては、自分とカオクの将来の為に何とかして、この難題を切り抜けねばならないと決意した。と、思いがけない展開に戸惑っていた間に、自分達が、何やら見知らぬ場所に辿り着いている事に気付いた。はて?チャンセンの歩の進む儘に着いては来たが、果たして、ここは一体何処だろう。大通りから外れた横道に入った覚えは有るが、人通りが全く無い、閑静な場所である。夕陽に赤く照らされた小路の先に、えらく立派な大門を構えた、豪邸が見えた。まさか…?この屋敷は?ハタと思い付き、ヨンギは、慌てて隣を振り返り見た。其処には、どこか怒った様な、何かを決意した様な、厳つい顔をしたチャンセンが立って居た。¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶