先日の事


とある作品の取材にて

そろそろ作品もクライマックスということで

役に対しての総括的な意味合いも兼ねたような感じで取材は進む


僕が担当するキャラクターは

あまりストーリーには関わらない人物で

どちらかというとあまり目立たない部類の人物を演じている


この作品に登場するキャラクター達は本当に個性が強く

エピソードによっては


妖怪大戦争


みたいになる事もしばしば


そんなコッテリさん達の中で

目立たず

控え目で

これといった能力もない我がキャラクター


しかし

彼にも他の豚骨スープの様なキャラ達に負けない個性が一つだけあった

それは…



時は半年前に遡る

この作品への参加が決まり

自分が担当するキャラクターの設定資料が届く



『紅茶とシフォンケーキを運ぶことだけが仕事。

いつもオドオドしている。』



こんな二行だけが書かれた人物設定だったが


普通の人間を演じることに飢えていた僕は大喜びだった



それから数日後


その作品の第一回収録を前日に控えたある日

事務所からファックスが送られてきた


どうやらその作品の追加資料のようだ


印刷して早速読むと

前記した設定の追加とキャラクターの設定画だった


設定どおり気の弱そうな顔立ちをしたイラスト


もう一枚に眼を移すと


前もって貰った設定の追加のようだった





『紅茶とシフォンケーキを運ぶことだけが仕事。

いつもオドオドしている。



ここまではおなじようだが

一行だけ端的に追加されていた



どうやら

真正のマゾのようだ』



……



……



潤のテンションが100に上がった



それから

実際に収録に入ってからというモノ

僕のセリフの大半は



『……』


とか



『ああ!』←上司に殴られる


とか


『すみません!』←上司に謝る


とか



『申し訳ありません!』←またまた上司に謝る


とか


上記したみたいなことがあっても



『ああ…』←恍惚的な吐息



なぜ其処で

頬を赤らめる!?



みたいなことばかりで

あまり人との会話よりもそういったプレイ的なセリフの方が多いキャラクター



収録も進み

クライマックスも迫ってくると

作中は世界の行く末や人の尊厳や心や

そういった重たいモノが話されている中


我がキャラは


どうやって

上司に虐められるか

しか考えてない


という

まったくもって困ったちゃんだった訳です


そんな感じだから

取材なんかも盛り上がっちゃったりする訳で

たくさん使えない話から使えない話をたくさんしてきたのです


ワタクシ福山は自称ドSって事にしていましたが

実際はどうなんだかは定かで入りません



そんな取材中に出た僕のこんなエピソード



それなりに前の事

当時の僕は上記したように自分はドSであると信じて疑わなかった

とある現場にて

いつものようにスタジオ内でボーっとしていたところ

向かいに座っていた先輩と目があってしまった


それ自体は何てことはないのだけれど

その先輩はかなりの美人な方で

その上なかなか掴み処のない方で

年上のお姉さま的な~憧れ的な~人だったり違ったり


目が合ってしまったところで

何か言うまでもなく

何かがあるわけでもなく

そのまんままた目が逸れてお仕舞いなモノな筈が

この時は違った



『ねぇ、福山君?』



え!?

まさか今話しかけられた?


大体いつもは話しかけようにも話題がないし

何よりもジェネレーションギャップのせいか

なにを話してよいのやらわからないから

あまりしっかりと話したことがなかったのに

今!

話しかけられているのか!?

しかも

何やら僕に聞きたそうにしている!

超嬉しい!!



いつもの様に浮かれて

はいっ何でしょ…


言いかけたところで



『は~い!じゃあ本番行きま~す!』



声が


ジーザス!!



なんてタイミングの悪い

大体いつも僕が何か話題を振ろうと話し始めると

いいところで上記したような事になる!

この天性の間の悪さが恨めしいぃ!!



などとのたまっていたが

終わらない今日は無いし開けない夜も無いのである


本番が終わり

またあの方から

『ごめんね福山君…あ、福山君なんて他人行儀ね、潤君って呼んでいいかしら?』

話しかけてくれるに違いないと踏んでいた愚かなオイラ

しかし

待てど暮らせどまったく話しかけられもせず

はたから見れば

なんかあの方をずっとガン見している奴にしか見えない状態になってしまっている

これはいかん

何より一体何の話を聞こうとしていたのかが気になったしかたがない



厠へ向い

その戻りがてらに



あのう○○さん

さっき本番前に僕に何か聞こうとしていらっしゃいましたが

なにを聞こうとなさっていたんですか?



勇気を持って聞いてみた!

すると



『え…あたしがアナタに何か聞いた?』



はい…




アタシアナタに何か聞いたの??』




え…あ…はい確かにさっき…




アタシがぁ

アナタにぃ

何か聞いたぁ??』




あ、いや、はい

まさか僕に何か聞くなんて事ないですよねぇ

はははは…



おかしい

これは何かのネタか本気かどっちだ??

しかし思い返してみれば

この方は若干受け答えにSっ気とも取れるフレグランスが漂う事があったが

今回のこれはネタやイジリでわなく

様子を見る限り

どうやら本気で忘れているに違いないのだが



問題はソコじゃない!



さっきから胸の奥底から湧き立つような

この高揚感


俺は今まで自分ではドSだと思っていたが

この心底心外かつ蔑む様な眼差しを上目使いに向けられつつ

理不尽な物言いをされる…

本来ならばムカつくはずなのに


しかし



これは



これはこれで



やぶさかでわない!!




そうかそうだったのか

今こそ俺は自分を知った!

俺は




どっちもアリ

だったんだ!




その後暫くして

その案件を思い出し

『ゴメンネ』と可愛らしく謝ってくれ一件落着したのだが


しかしこの日を境に

僕は自分のことを『ドS』と言うのを止め



『臨機応変…リバーシブルだ』



言うようになった


だからなんだと言われればそれまでだが

今回の取材とキャラクターのおかげで

こんな事を思い出してしまったのでした



そんなこんなで

個人的思い入れ甚だしいキャラクターが出演している
アニメ


『シャングリ・ラ』


もうクライマックス間近

お楽しみください!








ちゅうか

8月も終わろうかというのに

長々となにを書いてんだろうね

僕わ……。