フランスの象徴 ― マリアンヌ(2)

 

 前回、レピュブリック広場のマリアンヌ像を紹介した。今回はナシオン広場にあるマリアンヌ像を紹介しよう。

 

 ナシオン広場はパリ東部に位置し11区と12区の境目にあって、このところにあるブロンズ記念碑は多数の人物像を擁している。また、マリアンヌの立像はバスチーユの方向を向いている。バスチーユと言えば、1789年7月14日の牢獄襲撃が有名である。今は完全にその牢獄は取り払われているが、現在、広場の地面を注意深く見ると、いくつかの色の違った石畳が目立つが、これが牢獄の痕跡である。

 

 ナシオン広場の記念碑はジュール・ダル―(Jules Dalou)という彫刻家の作品である。1899年11月19日に、現在見られる「共和国の勝利」のモニュメントが設置された。

 

ナシオン広場にある「共和国の勝利」像

 

 歴史を掻い摘むと、ルイ15世、16世の治世から、1789年の大革命、第1共和政(1792-1804)、ナポレオン1世による第1帝政を経て第1次王政復古(1814)の直前まで、激動の時代であった。大革命とナポレオン帝国は、フランスの近代社会成立期における2つの巨大な歴史的事実であった。その後も、フランスは様々な政治的変動があり、百日天下、第2次王政復古、7月革命、7月王政、2月革命、第2共和政、第2帝政などが続いた。

 

 ナシオン広場にある「共和国の勝利」のモニュメントの一番上に立っている女性、マリアンヌは共和国の自由の象徴であるフリジア帽をかぶっている。彼女の足元には、共和国の普遍性を象徴する地球儀がある。民衆の力の象徴である2頭のライオン*に引かれた戦車に乗っていて、松明で道を照らす人に導かれた共和国は、労働、正義を表す女性、平和・豊かさを表す寓意像に囲まれている。また、それぞれの子供たちには意味があり、本と建築業の道具を持っているのは教育を、はかりを持っているのは公平さを、コルヌコピア**を手にしているのは富を象徴している。マリアンヌが片方の乳房を露わにした姿で表現されているのは、子供を育む母性的な力や神性を表している。

 

 尚、ジョルジュ・ガルデ作の水盤と海の怪物のモニュメントが一時存在したが、後に取り壊された。

 

今は存在しない水盤

 

 このナシオン広場は市民が共和制を勝ち取った象徴的な場所であるため、デモや集会の際によく利用されると付言しておこう。

 

 

*2頭のライオン : 約1万年前までライオンはヒトに次いで広く分布する大型陸上哺乳類だった。世界的に「百獣の王」として有名である。オスの外見はたてがみが非常に特徴的であり、容易に認識することができる。実際に全ての動物の中で国獣として選ばれる数はライオンが最も多い。

 

**コルヌコピア: 古代ギリシア・ローマ世界において、食べ物と豊かさの象徴として用いられた角のイメージである。西アジアやヨーロッパでは、収穫したばかりの食材を入れて運ぶために、伝統的にこの形のバスケットやパニエが使われていた。角型のかごは背中に背負うか、胴体にぶら下げて、両手を自由に使って収穫することができた。