マリアンヌと言っても、殆どの日本人が知らないと思うが、フランス人には馴染み深い女性の名前だ。しかし、実在の人物ではなく、マリアンヌは、フランス革命の時代に誕生したフランスの象徴である。彼女は自由、平等、友愛の理念を象徴し、共和国の擬人化として位置づけられた。革命の初期には、古代ローマ時代に自由の身になった奴隷が被ったフリジア帽と奴隷の鎖を断ち切る矛で武装した女性として描かれており、自由の女神としても知られている。

 

 マリアンヌの名前は、当時最も一般的だった2つの名前、「マリー」と「アンヌ」の組み合わせ。「マリー」はキリストの母の名前であり、「アンヌ」はマリアの母の名前でもある。これにより、キリスト教の要素と結びつけられ、共和国のシンボルとしての重みを帯びた。

 

 1960年代以降、マリアンヌは有名人をモデルにして描かれるようになった。ブリジット・バルドー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ミレイユ・マチューなど、様々な時代の女性がマリアンヌのイメージを担った。

 

マリアンヌの胸像

 

 19世紀の彫刻家ジャン=アントワーヌ・インジャルベールによるマリアンヌ像は特に有名だ。その彫刻は、フランスの町や村の役場、学校、主要な広場に見られる。また、マリアンヌのイメージは多分にコインや切手、公共の建築物などに使われており、そのデザインは歴史的、及び、政治的な文脈に合わせて変化している。1999年以降、各省庁の公文書においてマリアンヌのロゴが使用されることになったのは、フランスのアイデンティティや統一を象徴していると言えるだろう。

 

 時代と共にマリアンヌの服装や所持品、そして、モデルは変遷してきた。レピュブリック広場に立つマリアンヌは、トーガをまとい、フリジア帽と木の葉の冠、平和の象徴であるオリーブの枝を持ち、「人間の権利:Droits de l'Homme」と刻まれた石版を手にするといった形で表現されている。

 

レピュブリック広場にあるマリアンヌ像

 

 それにしても、1883年に製作されたこのマリアンヌの太い両腕は筋肉隆々とはいかないまでも、矛と相俟って随分逞しいと読者諸氏は感じ取られまいか?!