天国から来た大投手 十三、最後の一球 249 | 六月の虫のブログ

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「浩輔さん、僕は浩輔さんのおかげで今の僕があります。本当に感謝しています。ありがとうございました」と涙声で言った。浩輔は森次郎の肩を抱いた。「浩輔さん、試合が終わっても僕の中にいて下さい」と浩輔を見た。「でも、マスコミの取材に対応できないよ」と浩輔が言うと「ニュース二二の取材を最初に受けてもらえば、英語が話せなくても大丈夫です」と森次郎が答えた。

二つのことを根回ししていた。森次郎は第四戦の後、監督のオジーを訪れ、点を取られるまでは代えないことを約束してもらっていた。もう一つは、ニュース二二のディレクターに試合後、最初に取材してくれるよう頼んでいた。

「モリ、俺は最高に幸せだ。大リーグで活躍するのが夢だったけど、その最高の舞台、ワールドシリーズで投げることができた。そして、今、世界一を決するマウンドに向かおうとしている」。森次郎は浩輔を黙って見つめた。森次郎には、浩輔のことが完全に自分の記憶から消えるということが信じられない。浩輔は、森次郎の目の前でマウンドを見つめている。浩輔は上の世界に戻っても、下の世界の森次郎を見守ることができる。そうなれば、一方通行の関係になってしまう。「モリ、俺はいつも君の心のどこかにいる。例え君の記憶に俺のことが消えても。だから、悲しまないで」と言う浩輔に森次郎が涙目でうなずき打席に向かった。

森次郎はレフト前に痛烈なヒットを打ったが、後続が倒れた。守備についていたアストロズの選手達が駆け足でベンチに戻り、二塁上にいた森次郎も一呼吸置いてベンチに帰還した。森次郎はヘルメットを脱いで、持参の特製スポーツドリンクを一口飲んでからグラブを受け取った。いつも一言声をかけるキャッチャーのA.J.も黙ってグランドに出て行った。チームメイト達も緊張している。完全試合、パーフェクトゲームは、エラーをしたら終わりだ。井口も、七回くらいから打球が自分の方に来て欲しくないと思っていた。浩輔は森次郎と抱き合うと、森次郎に乗り移った。




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