天国から来た大投手 十二、ワンダーボーイ 241 | 六月の虫のブログ

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弘子と美盤は、夜の飛行機でサンフランシスコに戻った。ジュディと森次郎は、球場で二人を見送ってからリトルトーキョーの浜寿司で食事した。シカゴのはっぴ寿司に比べて、日本人のお客さんが多い。やはり駐在員が多いせいだろう。森次郎とジュディがカウンター席につくと、板場さんが「今日はナイスピッチングだったね。今日は井口さんじゃなく、美人の彼女がご一緒か」と言いながらおしぼりを置いた。板場さんにジュディを紹介してダイエットコーラを二つ注文した。板場さんはジュディが片言の日本語を話すので、彼女のことを相当気に入ったようだ。森次郎自身も会う度にジュディの日本語が上達しているのに驚いていた。ジュディは独学プラス美盤や弘子から日本語を学んでいる。ジュディは「日本語は五つの音しかないから話すのはそう難しくない」と言う。森次郎は、ジュディの日本語を聞くと彼女の愛を感じた。

森次郎が勝った第三戦の後、ソックスは二連勝してアメリカン・リーグ・チャンピオンに輝いた。浩輔と森次郎は、二度目のシャンパン・ファイトを味合うことができた。森次郎は「こんな経験ができるのも浩輔さんのおかげです。本当に感謝しています。浩輔さんのことは一生忘れません」と言った。浩輔は「モリ、君の気持ちは嬉しいけど、俺が上に帰ると同時に君の俺に関する記憶は消去されるんだ。だから…だから、モリとはそこでお別れなんだよ。俺はモリのことは忘れないよ。俺の方こそモリに感謝しているよ」と下を向いた。

浩輔がジミーに報告に帰った後、森次郎はホテルのベッドの上で泣いた。浩輔の言葉に自然に涙が流れてきたのだ。森次郎は、浩輔がいなくなることはある程度覚悟していたが、浩輔と過ごした時間や彼の優しい笑顔が記憶から消えるなんて考えられない。思い出にすらできないなんて悲し過ぎる。誰にも浩輔のことを言えない。言ったらその場で浩輔は上に戻されてしまう。それがジミー達との約束事なのだ。ジュディにも浩輔を紹介できない。森次郎は、それが残念でならなかった。