天国から来た大投手 十二、ワンダーボーイ 204 | 六月の虫のブログ

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十二、ワンダーボーイ




 森次郎が飛行機の座席に腰を下ろすと、隣の空席に浩輔が座っていた。森次郎は浩輔の見た瞬間、夢の伝承者の顔に戻った。浩輔は「今、ホワイトソックスはぶっちぎりでアメリカンリーグ中部地区の首位を独走している。今期は上に上がるチャンスはないかもしれない」と森次郎に説明した。「僕には、焦りはないですよ。来シーズンには上に上がるようにします。浩輔さんにもっと教えて欲しいことがあるので」と森次郎は微笑んだ。浩輔も森次郎のアメリカ生活を楽しんでいたので、大リーグデビューは来シーズンでもいいかなと思っていた。

卒業式からこれまで、二人は一日も欠かさずトレーニングをしてきた。浩輔は、森次郎が実戦から少し遠ざかっているが、特に問題はないと考えている。浩輔が一番心配しているのは、森次郎の油断とモーティベーションだ。

空港には森次郎が入団するウインストンセーラム・ウォーソッグスの広報担当者が出迎えに来てくれていた。広報担当者といっても、雑用は何でもこなす何でも屋の女性だ。彼女はポーターに荷物を車まで運ばせると、チップを渡して車を出した。二人はゲートで互いを紹介した後、ほとんど会話を交わすことはなかった。森次郎も疲れていたので、事務的な彼女に話し掛けようとは思わなかった。彼女はモーテルに森次郎を降ろすと「明日の朝九時に迎えに来るから」と言い残して去った。

浩輔と森次郎は早朝トレーニングをした。浩輔が「モリ、天国でも野球チームがあるんだ。俺はまだ参加できないけど、メンバーは凄いらしい。ジミーやトーマスの上司が大の野球好きで、俺がこうしていられるのも彼のおかげなんだ」と言うと、「アメフトチームもあるんでしょ」と森次郎が尋ねた。浩輔は「もちろん」と答えると、話題を変えた。「モリ、もしコーチが試合に投げられるかどうか尋ねたら、快諾してくれ。俺は天国でもピッチング練習しているから、大丈夫。天国では座りたいと思えば椅子が出てくるし、ボールやグラブが欲しいと思えば、それらが現れるんだ。キャッチャーまで出てくるんだから。天国では自分が信じれば何でも現れるんだ」と浩輔は微笑んだ。




  ウインストンセーラムのダウンタウン(フリー画像より)