天国から来た大投手 二、夢の伝承者 5 | 六月の虫のブログ

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 浩輔は、ジミーが差し出した念書にサインすると、さっそく下界に送られた。彼が前を見るとヘルメットを着けた大男が、彼をめがけて突進してきた。彼は思わず避けようと横に飛ぶが、避けられなかった。ヘルメットの大男は浩輔の身体をすり抜け、別の男に飛びついた。ヘルメットの大男には浩輔が見えなければ、浩輔を感じることはできない。浩輔はフィールドの真ん中にいたのだが、フィールドのサイドに移動して、夢の伝承者を探すことにした。彼がいるのはある高校のアメリカンフットボールの練習場だった。彼は目を凝らして練習を見た。彼はアメフトに関して、ほとんど知識がなかった。でも、選手の動きを見るだけで、身体能力の良し悪しは判断できた。浩輔の目に留まったのは、背番号十一番のクォーターバックだ。背番号十一は、彼がライオンズ時代に付けていた背番号と同じだった。彼は運命を感じた。同じ背番号の彼が、浩輔の夢の伝承者だと確信した。彼のプレーは素晴らしい。ロングパスも正確に決めている。肩も悪くない。動きも俊敏で、ディフェンスのタックルを次々にかわしている。浩輔は、彼なら彼の夢を代わりに叶えてくれるに違いないと思って、天に感謝した。天というよりトーマスとジミーに感謝した。
 練習が終わると、浩輔は背番号十一の彼に近づいた。すると彼は、浩輔に気づかず、前に立つ浩輔の身体をすり抜けていった。背番号十一の彼は、夢の伝承者ではなかったのだ。浩輔はがっかりして、フィールドに座り込んだ。彼の身体能力なら、彼の夢を叶えるのはそう難しくないと思ったのだが、とんだ勘違いだった。浩輔がフィールドを見渡すとそこに残っているのは、マネージャーらしき女の子とフィールドの周りを浩輔が来た時からくるくる走っている背番号三十九の背が高い少年だけだった。
 一緒にいた女の子は、背番号三十九に何か怒鳴ると、フィールドを後にした。浩輔が背番号三十九の彼に近づくと彼は、息絶え絶えで胃の中のものを戻してしまった。浩輔が思わず彼のゲロを避けると、背番号三十九の彼は、浩輔に向かって「おじさん、御免。でもこんなところで何してるの?」と問い掛けた。浩輔は、言葉が出なかった。なぜなら、背番号三十九の彼こそが、彼の夢の伝承者だったのだ。


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