十六歳のアメリカ 1977年 夏 三四、シルビア 136 | 六月の虫のブログ

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 カーシャウ家から歩いて一分のところにある公園に、テニス・コートが三面あった。アメリカではテニス・コートやバスケットボールのボードを備えている公園が、町内に一つはある。この日は平日だったせいか、ティムとボクが公園に着いた時、コートは三つとも空いていた。まず、汗がにじんでくるまで準備体操を入念に行った。怪我を避けるためには入念な準備体操が不可欠だ。ベースボール・シーズン中も、ウオーム・アップと練習やゲーム後のクール・オフは入念にやった。
 準備体操が終わると、軽くボールを打ち合った。さすがにティムは基礎ができていて、綺麗なフォームでボールを真っ直ぐに打ち返してくる。我流テニスのボクは、フォームも安定していないため、ティムの打ち返しやすいところにボールを返そうとするものの前後左右に大きく振れてしまい、ラリーが長続きしない。人々は、この打ち合いを見るかぎり、実力はティムの方が数段上だと思うだろう。しかし、ボクはティムとの打ち合いで、彼には勝てると思った。彼の打ち返すボールには勢いがなかった。体力と瞬発力には自信があったボクは、ボールを拾いまくれば、必ず勝てると確信していた。一方、ティムの方も打ち方が我流で方向性も今一のボクを見て、勝てると思っているに違いない。ボクが彼に「そろそろ試合をしよう」と言うと、彼はボクと以前スプリングフィールドでキャッチボールをした時にボクが全力投球する前に見せた不敵な笑顔を見せた。
 試合は、六ゲーム先取の三セット・マッチ。ティムのサーブから試合を始めた。彼のスピン・サーブは、打ち合いの時のボールと同様、勢いがなかった。ボクは彼のうち返すボールをことごとく拾いまくり、第一ゲームはボクが取った。ボクはサーブに自信を持っていた。ボクのサーブは、ピッチングと同じフォームで、ボールをフラットに打つ。フォルトにならなければ、ティムにはレシーブできないだろうと思った。この日のボクのサーブは、絶好調でほとんど外れなかった。予想した通り、ティムはボクのサーブにかすりもしない。たまに、ラケットに当たってもボールは前に飛んでこない。ボクのサービス・ゲームでは、完全に彼を圧倒した。ティムのサービス・ゲームでは、ボクはとにかくボールを返して、ティムがミスするのを待った。結局、第一セットも第二セットも六対二、六対一で圧勝した。チャックやリック・シュネルなら、涙を流して悔しがっただろうが、ティムは負けても平然としていた。マッチの結果を聞いて、悔しそうにしたのはティムのお父さんの方だった。ボクは負けても悔しがらない十五才の少年を見て、少し心配になった。



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