天国から来た大投手 Vol.2 | 六月の虫のブログ

六月の虫のブログ

ブログの説明を入力します。

第一部 松原 浩輔


一、最後の一球 (つづき)


 浩輔は最後の一球を投げた。彼の予想どおりバッターは完全にタイミングが合わず、空振りの三振に終わった。試合後のインタビューで、バッターは「真っ直ぐかカットボールに合わせていたので、スライダーには対処できなかった」と言っていた。浩輔の予想どおりだ。

 最後の一球の後、浩輔はバッターが空振りしてボールがキャッチャーミットに収まったのを確認すると、軽く右手こぶしを挙げた。キャッチャーは飛び上がって喜び、マウンドにいる浩輔に駆け寄って抱きついた。浩輔は他のナインやベンチで勝利を待っていた選手やコーチにもみくちゃにされた。監督の胴上げの最中、浩輔は「これで来シーズンから夢に挑戦できる」と思うと鳥肌が立ち、同時にライオンズへの責任を果たしたと思うと肩の荷が下りた気がした。

 胴上げが終わった後、浩輔はインタビューに呼ばれた。偉業を達成したにもかかわらず、浩輔は冷静だった。観客やチームメイトはもちろん、インタビューのアナウンサーも興奮していた。日本シリーズをパーフェクトゲームで勝利して制したのだから、みんなの興奮も理解できる。あの冷静と思われた監督でさえ、目に涙を浮かべている。浩輔にとって夢は大リーグでプレーして世界一になることで、今回の日本一は彼にとって通過点に過ぎないのだ。

 球場でのインタビューが終わると、テレビ各社への生出演が浩輔を待っていた。彼はアイシングとトレーナーによるマッサージが終わると、シャワーを浴びて、トレーナーとともに、チームメイトや監督が待つ球場近くのホテルに向かった。浩輔が球場を出る頃には、ファンはほとんど球場の周りにはいなくなっていた。先ほどまでの熱気や歓声はどこにもなく、静かで街灯の明かりだけで薄暗かった。浩輔が球場の出口を出て、深呼吸した時だった。大きな車のエンジン音がしたかと思うと、電光に目が眩んだ。



 つづく・・・



六月の虫のブログ-2011112912310000.jpg