十六歳のアメリカ Vol.12 | 六月の虫のブログ

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英語が空を飛ぶ


八、チャック・スチュワートという弟


 一九七〇年代半ばのこの頃は、アメリカがヴェトナム戦争やウォーターゲート事件という苦い経験から数年経ち、自信を取り戻そうとしている時期だった。六〇年代後半や七〇年代初期に比べ、世の中は落ち着いていたが、若者が髪を長く伸ばし、ロックを聴きながら酒を飲み、マリファナを吸う習慣は健在だった。七〇年代の半ばになって大きく変わったのは、聴く音楽がジミ・ヘンドリックスからピンク・フロイドやイエスになったことと、若者の反戦運動がなくなったことだろう。また、この頃アメリカではジミー・カーター旋風が吹いており、現職のフォード大統領はニクソン前大統領の影を引きずり、この十一月の選挙での当選が危ぶまれていた。

 アメリカの高校生たちは戦争に行く心配もなくなり、高校生活を楽しんでいた。彼らは日本の高校生に比べ、のびのびしているように見えた。また、日本の高校生と大きく違うのは、彼らは経済的にも精神的にも独立精神が旺盛で、親とほぼ対等な関係を保とうと一生懸命なところだ。小遣いも自分で稼ぐし、欲しいものは自分の稼いだお金で買う。高校を卒業するとほとんどのアメリカ人は親から完全に独立する。大学も自分で学費ローンを組み、自力で卒業する奴が多い。幼い頃から個人を確立するように教育されているのだ。小さな子供が、家の前でレモネードを売ったり、親の車を洗って小遣いを稼ぐ。アメリカの学校の夏休みは六月から九月の三ヶ月間あり、ほとんどの高校生は、アルバイトに励む。私の周りには、ただ単にお金目当てではなく、何か目的を持って働いている奴が多かった。医者になりたいと思っている奴は、病院でのバイトを探すし、先生になりたい奴は小学生のサマー・キャンプの指導員になる。このバイタリティーがアメリカを支えているのだ。

 スチュワート家の教育方針も例外ではない。チャックもサマー・ジョブを持っており、小遣いは自分で稼いでいた。犬が大好きな彼は夏休みの三ヶ月間、動物病院で働いていた。チャックは学業に専念するため学校が始まるとアルバイトは止めたが、学期中も放課後にバイトする高校生もいる。スチュワート家は、上流に近い中流階級に属すると思う。このクラスの人達のライフスタイルがアメリカンドリームであり、彼らの価値観がアメリカの価値観であったように思う。彼らの子供のしつけ、社会への奉仕精神、仕事に対する姿勢、余暇の過ごし方を見ていると、日本人のそれの遥か上をいっていたように思う。今から思うと、スチュワート家は、古き良きアメリカを象徴する家族だった。


 つづく・・・


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ジミ・ヘンドリックス。彼が出演したウッドストックで60年代が終わった。


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ピンクフロイドの名盤『狂気』(レコードを娘に持ってもらって撮影)。

1973年の発売から15年間ビルボードの200位以内にチャートイン。これは、ギネス記録です。


注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますがフィクションです。