お付き合いが始まって、私が最初に困ったのは、呼び方でした。


今まで山田くん、です。

だからしばらくは山田くんでした。

彼は、呼ばずにそれとなく呼びかけて喋っている感じ(笑)「ねえ。」みたいな。


一カ月くらい経った頃、思い切って私が先に変えました。


「はるたかくん。」


山田陽貴。

それが、彼の名前だった。




陽貴くん。

陽貴くん。





私は一生懸命勇気を出して呼んでいるのに、彼はなかなか名前を呼んでくれなくて。


やっと呼んでくれたのは、私が名前で呼ぶようになって更に二、三週間後。




「ゆかりさん。」




コラーーーーーー!ってなものです。



「“さん”って何よ!」



照れ屋な彼には、それがしばらく精一杯で。

それでも、半年後にはどうにか。



「ゆかりちゃん。」



になりました。




そしてその頃には、

私の彼への呼び方は、




「はるくん。」




になっています。




些細なことですが、付き合い始めの私はすごくこだわりました。

今思えば、まだ不安定な関係だったので、不安も強く、絆が深まっている証拠のようなものがほしかったのだと思います。

今も彼が私を“さん付け”で呼ぶことはありますが、今は全く気になりません。関係が深くなり、彼の性格が分かってきたから、それもまた愛しくなったと言えばいいのでしょうか。

付き合い始めは、揺らぎのないものがほしくて、かなり無理をしていたんだなあと思います。

当たり前のことを言ってしまいますが、揺らぎのないものは、目に見えないものですね。積み重ねた日々や、言葉や、お互いの空気。それこそが、揺らぎのないものを形作ると今なら分かります。



付き合い始めの私に、

「大丈夫だよ。」

と、言ってあげたい。




それくらい焦っていた、当時の私でした。