待ち合わせの駅に着くと、チノパンにシャツを着た山田くんが待っていた。
「お待たせ。」
私が小走りで駆けていくと、山田くんは穏やかに微笑んだ。
「谷岡さん、電車大丈夫だった?」
私が、ずっと前に
ーー電車で痴漢にあってから、どうしても電車が苦手でーー
と話したことを覚えてくれていたらしい。
私は、そんなことが嬉しくなって顔が緩んでしまう。
「あ、そういえば。谷岡さん、昨日のことだけど…。」
「あ、ああ…それは…。」
私は、昨日聞いた話をする。
彼は、目を丸くしている。
一気に話して。
それから、最後に聞いた。
「山田くん、彼女いるの?」
「いないよ。しばらくいない。何でそんな話になったんだろう。まあ、もう行くことのない職場だからいいけど…。」
私は、ひとまずホッとした。
ちょっとの不安は、拭えなかったけれど。
そこからの一日は、ものすごく楽しかった。
映画まで時間があったので、ブラブラしたり、お茶したり。
歩いていると、急に浄水器の宣伝のお兄さんが近づいてきた。
「奥さん、どうですか?」
言われて、私は戸惑う。
「え、えっと…。」
慌てて山田くんを見ると、今度は山田くんにお兄さんが言った。
「ご主人様、どうですかー?」
「そうですねー。」
彼は、ちらっと私に笑いかけてから、返した。
結局ーー当然ながら、買うわけはなかったけれど、そのことと言い、いつもと同じようで、何か違う彼の表情や雰囲気に、私はずっとドキドキしていた。
(これは…デートと思っていいの?)
私は、映画を観ている間も、なんだかよく分からないドキドキにとらわれていた。