女は嬉しそうな表情を浮かべ

手に持った赤の(恐らくは林檎を模した)ポーチを眺めた

贈ったであろう男は左隣に座って

ほりの深い顔を悲しそうに歪めていた


会話はなかった


女が心から喜んでいたのかは女にしかわからないだろうし

男が寂しそうな顔をしたのが、贈り物の反応を気にしてか、別れが辛いのか、はたまたそれが男にとっては普通の顔なのかは

男にしかわからない


例え

わかったつもりになっても、だ

確認しても

返ってきた言葉が嘘なのかも知れないし

本当なのかも知れない


実際の所、

他人の真理への到達など不可能だろう



女は立ち上がり

少し遅れて男が立ち上がる

立ち止まる

女は振り返り

男にキスをした

軽く


女の後方の

つまりは男の前方のドアが開いた


女は降りて

男が残った


女は振り返らず

男は女の背中をずっと追っていた


ほりの深い顔を

悲しそうに歪めていた