ショートショート その28 | 酔いどれ介護録 爺婆糞戦記

ショートショート その28

 草食系男子という言葉はいつごろから使われるようになったのだろう。


 男子というからには、若いのだろうが、オヤジにだっている……、でも、こんなのかなあ~。


『ソウショク系オヤジ』


             作/junchan-kk


「ソウショクケイじゃなくて、ソウショクケイだわねえ」


 気持ちよく飯を食っていると、突然カミサンが、感に堪えないように、私の顔をしげしげと見た。


「なにわけのわからないことを言ってるんだ」


 私は居候ではなく、れっきとした亭主だから、三杯目を堂々と出した。


「最近、草食系の若い男の子が増えてるって言うじゃない」


「ああ、肉食草食の、草食ね。頼りないったらないねえ、ああいうの」


 それにしても、この豚肉の生姜焼きは固い。焼き過ぎだ。カミサンは妬きモチ焼きだから、なんでも焼きすぎてしまうのだ。



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「でも、やさしいから、女の子にもてるらしいわよ」


「情けないねえ」


 私はフンと鼻で笑って、三杯目を平らげる。食った食った、大満足。


「やっぱりソウショクケイだわ」


「誰が」


「あんた」


「俺が草食系なわけないだろう」


「その草食じゃなくて。早食。早食いのほうの早食」


 うまいこと言うなあ。たしかにその通りだ。今の食事時間も5分とかかっていない。一杯の米の飯が2分弱。立派なもんだ。早飯早糞芸のうち、と言うではないか。


 それがどうした文句があるか、だ。


「おまけに小食じゃなくて大食。これじゃ女の子にはもてないわねえ」


 ん?話が妙な所にいきそうだぞ。


 新手の誘導尋問かもしれない。うっかり、もてないわけないじゃないか、なんて言おうもんなら、追及してくること必至だ。


「もてない、もてない。こういうオッサンは力はあるけど、もてない」


「ムキになって言うところが怪しい」


 ひょっとして、この間入社3年目のY子に手を出したのに気づいたか。まさかまさか。


「こんなソウショク系、草のほうじゃなくて、早いほうのソウショク系オヤジで、加齢臭に脂ギトギト、いちばん若い女の子に嫌われるのだ」


 嫌われたって手は出せる。体力、気力、迫力、金力、どれをとっても若いやつらに負けない。


「若い女の子ねえ~」


 カミサン、ギロッっと睨んだ。


 しまった。若いだけよけいだ。


「オバサンも避けて通るぞ」


「そうねえ、それだけ早食だと、いかにも飢えてるみたいで、敬遠されるわね」


「そうそう。犬でも猫でも、メスは近寄ってこないぞ」


 再びカミサン、ギロギロッと睨んだ。言いすぎたか。


「まあいいわ。じゃ、片付けて洗いものしますから」


 ホッ。どうやらやり過ごせたらしい。


「それにしても」


 カミサン、立ちあがりかけて言う。


 まだ終わってないのか。


「あんまり早食すぎて、味のほうもわかんないでしょうねえ」


 なんだ、そっちのほうか。


「そんなことはないさ」


「生姜焼き、ちょっと苦くなかった?」


「いや、いつもと同じだよ。最近歯が弱くなってきているのか、少々固く感じたけどね」


 うーん、なんとも気を使うなあ。


「そう、それならいいけど」


「なにかあったのか」


「ちょっと新しい化学調味料使いすぎちゃったのよ」


 そう言って、カミサンは謎のような微笑を浮かべた。



 
 その日以降、私の前にぶらさがるものは、小便をするためだけにしか用を為さなくなった。



酔いどれ介護録 爺婆糞戦記-!


 私の大事なものは、草食系でも早食系でもなく、単なる装飾系になってしまったのだ。
       

                   了

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