◆こんな時だから、ブラームスを聴こう ブラームス交響曲第1番 クレンペラー

 新コロナウィルスで、世の中が騒がしい。社会が激変してゆく時の不安感とストレスは相当なもののようだ。

 

 クラシック音楽はストレス解消によいとか、リラクゼーションに効くとか言われているが、果たしてそうだろうか。

 

 ストレス解消やリラクゼーションしたいなら、なんにも考えずに、音楽なんか聴かずに、布団にもぐって寝てしまうほうが遥かにいいのではないか。

 

 クラシック音楽をストレス解消とかリラクゼーションなどの実用音楽として利用している人には、こんな時には、クラシック音楽は何の役にも立たないと考えるのではないだろうか。

 

 実際、そのような実用にはクラシック音楽は向いているとは思えないと私は考える。

 

◆なぜ音楽を聴くのか

 では、なぜ音楽を聴くのか。

 

 クラシック音楽はなにかの「役に立たせる」ために聴くものではないのだと私は思う。

 

 心の中が「ざわざわ」している時、「不安な時」、「悲しい時」、「うれしい時」などに、ベートーヴェンが、ブラームスが、あるいはモーツァルトやバッハが、慰めてくれる。励ましてくれる。勇気を持たせてくれる。何が正しいかを教えてくれる。

 

 音楽が寄り添ってくれるのだ。だから、私は音楽を聴くのだ。役に立つか立たないかではない。

 

◆さて、今日は何を聴こうか

 レコード棚の前に立って、「さて、今日は何を聴こうか」と、いつも思いあぐねている。

 自分で、今の自分の気分を、計りかねて躊躇するようだ。

 目をつむって、手を伸ばし、一枚のレコードを取り出す。いつでも、だいたい同じレコードに手が行ってしまうのだ。

 数多くのレコードを持っていても、年中聴く気になるレコードは、そう多くない。せいぜい7~80枚だろうか。100枚あるかないかだ。

 

◆そんな中から、今日の一枚

 

 ブラームス 交響曲第1番 ハ短調

  オットー・クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団

 

◆日本人には苦手なブラームス

 ブラームスは日本人には人気が高いとは言えない作曲家だ。だが、ドイツでは「3大B」と呼ばれて敬愛されている。

 すなわち、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスだ。日本の有名な作曲家が「3大B」は、バッハ、ベートーヴェン、バルトークだと大声で言っていたのを思い出す。彼にとってはブラームスは「3大B」ではないのだな。しょうがなくてハンガリーのバルトークを当てはめたって訳だ。

 

 ブラームスは「地味だ」。ブラームスは「分かりにくい」。ブラームスは「暗くてじめじめして」いる。ブラームスは「気難しいじじいがぶつぶつと小言を言っている」ようだ。など、非常にマイナスな評価が多い。

 

 日本人は、自分が理解できないものには、否定的な評価を下すようだ。

 素直に「自分には理解できない」と言えないのだ。

 

 素直に言ってくれれば、理解するお手伝いができるかもしれません、といってあげられるのに。

 

 否定的な評価をしている人には「ああ、あなたはブラームスが好きじゃないんですね。残念です。」としか言ってあげられない。

 

◆ブラームスを聴こう クレンペラーの名盤で

 表題のブラームスの交響曲を聴こう。ブラームスは交響曲を、生涯に4曲しか作曲しなかった。しかしそれらはすべて名曲として200年後の現代でも愛され続けている。

 その第1番は着想から完成まで20年を要した。その初演を行ったドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローは「ベートーヴェンの第9に続く、第10番」だ、と褒め称えた。

 

 こんな解説はあとでゆっくり勉強すればいい。

 まずレコードに針を落としてみようじゃないか。

 

 凄まじいまでの熱気を帯びたオーケストラの咆哮のなかをティンパニの連打音が腹を突いてくる。

 

 おお、すごいぞ。

 こう思ったら、こっちのものだ。つまり、ブラームスの世界に一歩足を踏み入れたことになる。

 

 美しい第2楽章では、私はいつも眠くなる。これは退屈だからではなく、ブラームスの魔法に私の脳細胞がやられるからだ。

 

 たのしい第3楽章を経て、いよいよ終楽章に至る。

 

 この楽章の冒頭に示される、朗々としたホルンのメロディは、ブラームスが生涯、心の中で愛し続けたクララ(シューマンの妻)に捧げたメロディと言われている。

 そして、いよいよ第4楽章の主要主題が歌われる。このメロディはベートーヴェンの第九のメロディに似ている、と非難されるが、ブラームスは、そんなことは百も承知で書いたに違いない。

 ブラームスは、似ていると非難されると分かっていても、ベートーヴェンの遺志を継いで、そこから先に行くブラームスを表したかったのだ。

 

 素晴らしく充実した楽章は、やがて激しい盛り上がりを見せて終結に至る。

 

 ドイツ音楽でもとびきりの名曲なので、名演奏も多いが、ずば抜けたレコードがいくつかある。

 

 その中の一つが、オットー・クレンペラーが指揮した一枚だ。オーケストラはイギリスの名楽団フィルハーモニア管弦楽団。

 メンゲルベルクやベイヌムの名盤に続く大名盤だ。

 

 第一楽章冒頭のティンパニの打ち込みの凄い表情に、心奪われない人はいまい。

 

 素晴らしい演奏で、それを言葉にするのは、不可能。とにかく聴いてみてご覧なさい。

 

 多大な勇気を得られることは間違いない。