羽田、午前0時の高揚と誤算

旅の始まりは、いつも少しの緊張と大きな期待が入り混じる。
羽田空港第3ターミナル。
深夜便独特の、あの静まり返ったロビーに響くスーツケースのキャスター音が好きだ。

「機内で寝ておかないと、明日が持たないぞ」 自分に言い聞かせ、家族にもそう伝えた。しかし、体は正直だ。
これから始まる未知の景色への興奮が勝り、目を閉じても脳裏にはマーライオンや高層ビルが浮かんできてしまう。
結局、深い眠りに落ちることはなく、ウトウトとした時間は2時間弱。
窓の外が白み始めた頃、僕ら家族4人を乗せた機体は、
熱帯の風が吹くチャンギ国際空港へと降り立った。

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27階からの洗礼。パンパシフィック・シンガポールの衝撃

空港からMRTに乗り、
まずは今回の拠点「パンパシフィック・シンガポール」へ。
チェックインの手続きを済ませ、荷物を預けてさっそく観光の開始です。
のちにホテルに戻り、27階の部屋に足を踏み入れた瞬間、
家族全員から「わあぁっ!」と歓声が上がった。

足元から天井まで広がる大きな窓。
そこには、模型のように整然と、かつダイナミックに広がるシンガポールの街並みがあった。
寝不足の重い頭を、その絶景が一気に突き抜けていく。 
「ここに泊まるんだ」 その事実だけで、今回の旅が成功であることを確信した。

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彷徨えるチキンライス:天天の悲劇とラウパサの救い

身軽になった僕らは、さっそく街へ。
まずはガーデンズ・バイ・ザ・ベイで、その圧倒的なスケールの緑と建築に圧倒される。しかし、お腹は正直に空腹を訴え始めていた。

「シンガポールに来たなら、まずは天天(ティエンティエン)のチキンライスだよね」 僕らは意気揚々とマックスウェル・ロード・ホーカー・センターを目指した。しかし、そこで待っていたのは、旅の神様からの手厳しい洗礼だった。

ようやく辿り着いたその場所で僕らが見たのは、
無情にも閉まったシャッター。 「……休み?」 まさかの…。
さらに、ホーカー内は立錐の余地もないほどの激混みで、
家族4人が座れる席などどこにもない。
寝不足の体に、シンガポールの湿度が追い打ちをかける。

しかし、ここで諦めないのが僕ら家族だ。
再び歩き、ビジネス街の真ん中にある、
「ラウ・パ・サ・ホーカー・センター」へと引き返した。
そこでようやくありついたチキンライス。 
鶏の旨味が凝縮されたライスを一口頬張った瞬間、
全員が顔を見合わせた。「最高だ……」。
あの歩いた距離も、天天が閉まっていたショックも、
すべてはこの一口のためのスパイスだったのだと思えるほど、
その味は格別だった。

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猛暑のなかの異世界。そして「17時の奇跡」

午後は「クラウド・フォレスト」へ。
一歩足を踏み入れれば、そこは巨大な滝が轟音を立てる別世界。霧に包まれた植物たちの姿は、まるで映画『ジュラシック・パーク』の世界に迷い込んだかのようだ。

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体力の限界まで歩き回り、一度ホテルへ戻って休憩することにした。
「1時間だけ、横になろう」。そう決めていたはずだった。 
だが、冷房の効いた快適な部屋と、ふかふかのベッド。
そして何より、機内での2時間睡眠という負債が僕らを襲った。

「……っ!」 ハッと目覚めて時計を見た瞬間、血の気が引いた。
16時50分。 夕食の「ジャンボ・シーフード」の予約は17時30分。
タクシーの移動時間を考えれば、絶望的な時間だ。 
「みんな起きて!あと10分で出るぞ!」 寝ぼけ眼の娘たちを急かし、
文字通り飛び起きるようにして準備を整える。
タクシーの運転手に目的地を告げ、祈るような気持ちで車窓を眺める。

結果は……奇跡のオンタイム。
17時30分ちょうどに、リバーサイドの席へ滑り込んだ。


祝杯のチリクラブと、初めてのカジノ

運ばれてきたのは、真っ赤なソースに溺れた巨大なチリクラブ。
ピリッとした辛さと蟹の甘み、そしてそれを拭い取る揚げパンのサクサク感。 「間に合ってよかったね」と笑い合いながら、家族4人で夢中で蟹に食らいつく。
ハプニングも笑い話に変えられるのが、家族旅行の醍醐味だ。

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食後は腹ごなしにボート・キーを散策。
夜風が心地いい。 マーライオン公園へ辿り着くと、対岸には光り輝くマリーナ・ベイ・サンズが鎮座していた。その夜景のあまりの美しさに、しばし言葉を失う。

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そして、この日の締めくくりは人生初のカジノ体験。 
あの独特の緊張感と高揚感が漂う空間は、まさに大人の社交場。
勝負の結果はさておき、その空気感に触れたこと自体が、最高のアドベンチャーだった。

ホテルに戻り、再び27階からの夜景を眺める。 
1日目にして、もう何日も旅をしているような濃密な時間。
妻と、そして成長した二人の娘。
この4人で今、ここにいること。 
その幸せを噛み締めながら、ようやく深い眠りについた。

明日は、USSとセントーサ島。僕らの冒険は、まだ始まったばかりだ。


🔜次回予告:歩く、笑う、買い込む。

17時の奇跡を乗り越えた僕らを待っていたのは、セントーサ島の容赦ない太陽でした。 USSのアトラクションに興じ、ビーチで一息つき、夜はチャイナタウンの喧騒へ。 家族全員の歩数計がとんでもない数字を叩き出した、全力疾走の2日目。 次回も「僕」の視点から、シンガポールの熱気をお裾分けします。