
オレ達の目の前に並んだトムヤムクン、ゲーン・キャウワーン(グリーンカレー)、ソムタム・ファラン(グァバのヤムサラダ)、カイヂャオ(タイ風オムレツ)。
ゲストハウスという場所柄仕方ないのだが、こうもありきたりの料理ばかり並ぶと、ウンザリするどころかある意味壮観である。
『どうよ、初めて食べるトムヤムクンは?』
『う~ん…、結構辛いですねぇ。それにこれ、もしかしてココナッツ入ってます?』
『入ってるなぁ。こういう白っぽいのじゃなくて、澄んだトムヤムクンは入ってないんやけどな。
そっか、京ちゃんココナッツ嫌いやもんな』
『苦手ですねぇ…。で、やっぱりパクチーの味が…』
この男は特別偏食気味という訳でもないのだが、どうも東南アジアの香草系がダメなのだ。
それでいつもガイヤーン(焼鳥)とかばかり有り難がるのである。
『カカカカ辛っ!!ファアアアアーーーッ!!』
『ホンマや、このソムタムめちゃくちゃ辛いですよ…うわあ~…痛い!』
カオリのリクエストで「辛くして」と頼んだソムタム・ファランだったが、その辛さというのが尋常じゃなかった。
『うん、こりゃ大分と辛いな。食べ過ぎたら明日の朝、またケツがエラい事になるぞ……うわ、アカン、これホンマにハンパないわ…』
『痛たたたたたっ!………うわー!トムヤムクンで中和させようかと思ったけど、余計に辛い!最悪や!』
『ほんとだー、すっごい辛いねコレ!でも美味しいよ?』
全員手が止まるほど辛いソムタムを、平気な顔でパクつくカオリ。
その強烈な性格もさることながら、やはり味覚も普通の人間とは違うのだろう。
ここは遠慮するな、責任取って全部食え。
『しかし、やっぱり京ちゃんに世界三大スープのトムヤムクンは合わへんかったか~』
『僕はこのオムレツだけで充分ですよ。このネームってヤツもめちゃくちゃ辛いじゃないですか』
『ブハハハッ!確かにこれも辛いな。後で味付け無しで貰おうか、それなら食えるやろ』
『それがいいです。グリーンカレーもココナッツの味やし、食えるもん無いですよ、僕』
ところで「世界三大スープ」と言えば、フカヒレスープ・ブイヤベース・そしてこのトムヤムクンと言われるのが一般的なのだが、何故こんなもんが世界三大に入っているのかがオレにはサッパリ分からない。
そんなに騒ぐほど美味いもんかな?コレ。
オレなら迷わずコンソメスープ・クラムチャウダー・豚汁を認定するところだが、みんなはどうだろうか?
『それに、トムヤムクンって食べられる具がほとんど無いんよな。これにしたってエビとフクロタケくらいやしさ、どうせならもっと食えるもん入っときゃいいんやけど』
『この生姜みたいなのは食べないんですか?』
『生姜みたいなのじゃなくて生姜だわ、それ。もちろん食べへんよ』
『これは…あ、これはレモングラスですね』
『そうそう、香りとか酸味着けるヤツな』
『この葉っぱは何なんですか?』
『バイマックルーって言うて、コブミカンの葉っぱやな。そこら中に植わってるよ、その木が。
そいつをよく揉んでバミー(ラーメン)の中に入れるといい風味が出るんだわ』
『ふ~ん……で、結局食べられる具はエビと…』
『フクロタケだけ』
『残念ですねぇ…』
『まあな』

部屋割りの件やイサオイングリッシュで何とかひとしきり盛り上がった食事を終え、近所のバーでビリヤードに興じるオレ達。
オレにとってはこの夜がここまで来るまでの間では一番楽しい…っつかマシな夜になったが、帰国後に京ちゃんから聞いた話では、辛過ぎる料理に対して相当頭にきていたらしい。
が、
本気で頭に来る事が起きるのは、まだまだこれからなのである…

前回のチェンマイの時よりはサマになってきた京ちゃんの構え。
が、球にはなかなか当たらなかった。