聴けども飽きぬ、ビル・エヴァンスの魔法

陽の光や杜の緑に飽きぬように、聴けども聴けども飽きぬ音楽がある。

 

ビル・エヴァンスリバーサイド4部作(3.5部作❓)》は、私にはそう言う音楽だ。

 

■from 『ブルーノート道案内(ラズウェル細木)』■

…エヴァンスはジャズ鑑賞のスタートかつ終着地❓❓…

 

ビル・エヴァンスのデビューは1956年、名門ジャズレーベル《リバーサイド》のLP《ニュー・ジャズ・コンセプションズ》だが、500枚しか売れず。

 

よほど自信喪失だったと見え、同レーベル2枚目《エブリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス》の表カバー全面が、マイルス・デイヴィス始めジャズ界スーパースターの”エヴァンス賛辞”で埋められた。

 

内容も前作同様、どこか”確信”に欠けるように思われる。

 

が、1959年に一大転機が訪れる。スコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)と伝説的な《ビル・エヴァンス・トリオ》を結成、第3作《ポートレイト・イン・ジャズ》がリリースされた。

 

続く(《エクスプロレイションズ》《サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード》《ワルツ・フォー・デビー》と合わせた4アルバムが、《リバーサイド4部作》と呼ばれる。エヴァンス自らも認める、キャリア最高連峰だ。

 

そのうち《エクスプロレイションズ》はむかし虜になったアルバムだが、いつの間にか聴かずにいる(ゆえに私的に3.5部作💦)。

 

が、《ポートレイト・イン・ジャズ》は、本当に飽きぬ。

 

A面1曲目《降っても晴れても》の冒頭は早、”どうだ💢”という迫力。甘ったるいミュージカルソングの原曲は大幅に歪められ、前衛的な鋭角性や、闘争的な攻撃性さえ帯びる。

 

これは2曲目《枯葉》にそのまま受け継がれ、おフレンチなシャンソンの原曲は見る影もない、3人3様の自発的プレイは奇跡のケミストリに結実、見事なインプロヴィゼーションで魅せる。

 

3曲目《ウイッチクラフト》は幾らか(❓)大人しいが、前傾姿勢なグルーブは変わらず。中間部のソロで、ラファロのベースも砲火●~*

 

4曲目《恋におちた時》は、ようやく(❓)落ち着いた、日本人が普通に思い描く、ムーディーな(💦)ジャズ。が、本来は陳腐スレスレなスタンダードナンバーに、清新なアレンジで新しい生命が吹き込まれる。エヴァンスのピアノが、キレッキレで冴え渡る。

 

やや奇矯かつ高踏とも思われるアプローチだが、それゆえふと垣間見せる甘やかな表情がたまらぬ🌀

 

A面ラスト《ペリズ・スコープ》は本アルバムで唯一、明るいアップテンポなナンバーで愉しめる。…と言う訳で息つく暇もなくA面が終了。

 

B面ものっけから(《ワハット・イズ・ディス・シング・コールド・ラブ》)、快調にブイブイ飛ばす。ラストの憂愁あふれる《ブルー・イン・グリーン》との間に挟まれた2曲、すなわち《スプリング・イズ・ヒア》と《いつか王子様が》は一転、ロマンチックで聴き易いバラード🌸

 

エヴァンスのバラードはともすれば退嬰的と言うか、感情に流され過ぎだが、恐らくは若いラファロに煽られ、霊感に火がついた🔥すこぶる耳に優しいが、所謂”イージーリースニング”には堕ちず。

 

私的にはこの2曲がなければ、これほど繰り返し聴く事もあるまい。他曲のサワーでビターな味わいで、この甘味が引き立つ。

酸味で引き立つ、甘美なバラード

こう言うアルバムに似つかわしい”食”とは❓❓

…鯖寿司…だな。

 

以前、薬師丸ひろ子の回で使った《うまい鮨勘》の《鯖寿司》だが、似合うものは似合うがゆえ、やむをえまい。

旨い鯖寿司は、不思議だ。

ひと切れ喰い、あ”==っ😱 と美味に唸るが、またひと切れ喰えば、あ”==っ😱と、同じ感動に包まれる。

 

あたかも《ポートレイト・イン・ジャズ》のように、喰い(聴き)進めれば、味わいが深まるようにさえ思われる。

 

最初のアタックは鮮烈、目の醒めるような酸味でやられる。が、酸味で鯖のレアレアな生魚感が引き立ち、火が通った部分の滋味もいや増す。

 

いやァ、”日本海の鯖をどう喰おうか”と知恵を絞った京都の貴族はえらい。そうして鯖が運ばれた道が”鯖街道”とも名付けられ、食に寄す日本人の怨念とも似た執念も窺える💀

 

■本文と無関係(💦)■

人智の限りが尽くされた《鯖寿司》と《ポートレイト・イン・ジャズ》。ともに”どうすれば、味(又は音)の魅力が十全に引き出せるか”考え抜き、工夫と技術が凝らされた末の精華だ。

 

あるいは陽の光や杜の緑のような、普遍性に到達したやも知れぬ。これを芸術の奇跡と言わず、どう言おうか🐟