「それでええ。わたしも追っ払うだけが仕事じゃないけんな。何が何でも極楽に行かしちゃりたいとも思わん」
- 岡山女 (角川ホラー文庫)/角川書店

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タミエはかつて美しい女だった。
事業に失敗した“旦那”に無理心中を迫られ日本刀で切りつけられて、左目を失った。
そして見えるものが見えなくなったとき、見えないものが見えるようになっていた…。
幻の友人に怯える若い娘が依頼を持ち込む「岡山バチルス」
消えた姑を探す美しい娘婿と歪んだ母娘を描いた「岡山清涼珈琲液」
妾だったころのタミエの写真が結ぶ奇妙な縁の「岡山美人絵端書」
当時一番の流行りものだった陸蒸気をめぐる人々の悲哀と貧富を描いた「岡山ステン所」
百貨店に関する依頼が次から次へと寄せられるおかしな一週間の「岡山ハイカラ勧商場」
まだ科学が十分に発達していなかったころ、不吉と恐れられていたハレー彗星が近づく夜を描いた「岡山ハレー彗星奇譚」
と、妾から霊媒師となったタミエのもとに持ち込まれた奇妙な話六篇。
なぜだろう…。
読み終わったとき、とてもタミエに好感を持っていました。
自分の状況をよく分かっており、高望みしないで身の丈にあった暮らしをしているからかなあ。
唯一誇れた美しい顔を失った諦めもあるのだけど、もともと控えめで醒めた女だったんじゃないかなあ。
今よりも生き方も欲望も限られていた時代、こういう女性は思いのほかいたんじゃないかしら。。と、思ってしまう。
宮部みゆきさんの時代小説に出てくる市井の人々に通じるものを感じる。
とにかくこの物語に出てくる人物の中で確実に一番まっとうな人物なんですよね、タミエ。
気弱だけど凛としていて、現実的で優しい女だったんじゃないかなあ。
強いけど儚くて、幸せになってくれたらいいなあと、つい思ってしまいました。
岡山弁がまた、ちょっといじらしくてキュートなんです( ´艸`)
あと、大事なことを忘れていたけど、タミエはすごく色っぽい。
そして時々、普段おさえていた女の顔を出してしまうところがなんか愛おしい。
あの手に触れられたいとか、昔を知る男に「あの頃の私はきれいじゃったろう」と言うシーンとかゾクゾクする。
それから、この主人公一家も今から見るとちょっと奇妙で家族らしくないのだけど、なぜかおかしみがあって憎めないのです。
当時の流行りものをテーマにしており、文明開化により変わりゆく明治の岡山の様子が丹念に描かれていて、当時の情景が目に浮かぶようです。
『ぼっけえ、きょうてえ』のようにムッとするような湿度や、堆肥のような臭いはしない。閉塞感も感じない。
湿度の違いは、田舎と都会、同じ明治の岡山でありながら主人公を取り巻く環境の違いでしょうか。
それなのに時おり、まるで狂気が腐臭となって広がったかのように、不意に厭な臭いを嗅がされたような気分になってゾクッとしました。
岡山美人絵端書と岡山ステン所(stationの訛り)が特にすきでした。
図書館で借りたのだけど、買おうかな。
正直『ぼっけえ、きょうてえ』のインパクトには劣るけど、まさに日本の怪談といった風情がとても気に入りました。
すきだわ、岩井志麻子さん。
本人は強烈だけど(笑)
作品は意外と繊細で(←失礼)、美しいのです。
長い感想を書いてしまった(笑)