書庫の重い扉を開けると一目散に目的の本棚に走り寄る

広い書庫の膨大な本の中、ほとんどの本の場所を覚えている
お目当ての本を見つける事なんて簡単な事なのだ


「ち、ちょっと、潤くんっ!手っ!」

「あっ、ごめんごめん」

和也の手を引いていた事もすっかり忘れていた潤は慌てて手を離した


「で、解読出来そうなんですか?」

「うん!任せてっ!」

大きな瞳を更に大きくして手紙の封を切る
手触りの良い上質な紙にこの国では見かけない文字が並んでいる

一文字ずつ、丁寧に丁寧に本の中にある文字と比べながら和也には全く検討もつかない文章を読み進めていった


『日いずるくに
           日のいずる刻に
                                    現れる紅
                                            己の感ずるままに』



「どういう事だろう?」

解読した手紙を和也と共に眺めながら考える

「日のいずるくにって暁の国じゃないですかね?」

「暁の国って秀明さんの?」


争いの絶えない時代、武力ではない力で繁栄してきた暁の国とは古くから親交がある

現国王は幼い頃、この国から出る事の出来なかっ兄弟達の異国の地から来る唯一の友達だった

今では国王同士の国の行き来は頻繁に行われ、次期国王である長男の智が同行したり、藤の国の軍隊を率いる次男の雅紀が合同訓練をしたりしている


「まずは父上と兄さん達に報告ですよ」


手紙の文章が呪文の様に頭の中を繰り返している潤の心はすでにここに在らず

今度は和也が潤の手を引いて父の元へと急ぐのであった