古い文献を書斎の机に積み上げ、次から次へと捲っていく

難解な古代文字を初めて目にする翔の眼差しは真剣そのもの

結婚には乗り気ではないものの、調べ物をする事は得意分野
結婚の事などとうに忘れて、一文字ずつ理解していく作業に楽しさを感じていた



『日のいずるくに……』


「日のいずる………」


翔の頭の中に1つの国が浮かぶ

紅の国とは正反対の歴史を歩んできた暁の国

戦乱の世の中でも戦いを良しとせず、話術と交渉力で繁栄を築き上げた国

翔もこの国の歴史を深く知る事で自国の今を築き上げた一因でもある

『日のいずる刻に
                               あの場所で……』

「あの場所?」

1度だけ暁の国に行った事を思い出す

何処までも続く水平線から登りくる太陽
それがこれからの新しい時代を物語っている様で
自国のこれからのがきっと光り輝く未来へと続くと確信を持てた気がした


『佇む最愛の君………』


最後の言葉を理解した瞬間、翔は現実に引き戻された


「結婚か…………」


まだ政略結婚も珍しくない時代
顔も知らない相手と契を結ぶなんてよくある話

「俺が人を愛する事が出来るのかな?」

ひたすら自国の繁栄の為、努力を惜しまず生きてきた
その生き方に後悔など一切ないが、今でも仲睦まじい両親を見ると、自分にはそういう感情が欠落しているのではないかと思う


「ここに行けば解るかもな………」



翔は旅支度をするとその手紙をポケットにしまい自室の扉を開けた