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あてもなくとぼとぼと駅とは反対方向に歩く

可愛い女の子だったな

チラッと見えてしまった写真
清楚な感じのいかにもお嬢様




しょおくんの帰宅には早い時間、インターフォンが鳴った

画面には見知らぬ女性
何かの勧誘かな?と思い応答してしまった


「翔……の声じゃないわね?」

えっ?誰?

「開けて頂戴」

考える間もなくそう言われて、咄嗟に開けてしまった

「初めまして。翔の母です」

「えっ……と……」

「翔から聞いてるわ。ルームシェアしてるのよね?」

「あっ、はい。松本と言います……ま、まだ、しょ…櫻井さんは帰ってませんけど」

「あら、そうなの?今日は帰ってくる?」

「は、はい。その予定…です。もうすぐだと思いますけど」

「じゃ、待たせてもらうわ」

「あっはい。ど、どうぞ……」


リビングにお通ししてからキッチンに立つ

お茶でいいのかな?



「どうぞ」

そう言ってお茶を出す

「あら、ありがとう。男の子なのに気が利くわね」

「い、いえっ………」

どうしたらいいんだろう?
こんな事、想像もしてなかった

座る事も出来ず、トレーを持ったまま立ち尽くしてしまった

「座ったら?」

しょおくんのお母さんが優しく促してくれたので、緊張しながらもお母さんの前に座る


「松本くん?翔とは長い付き合いなの?」

「つ、付き合いっ?」

「知り合って長いの?」

「あっ………はい、大学入ってからだったので3年くらい…です」

最近はいろいろな人に会う機会も増えて、苦手な人付き合いも少しずつ克服していたのに、緊張でどうにもならない

ついつい俯いてしまう

するとお母さんが俺の顔を覗き込む

「綺麗な顔してるわね。男の子にしておくのがもったいないわ」

「えっ………」

「娘より可愛いし」

「は、はぁ………」

これはどう対応したらいいんだろう?

「松本くんも何か会社をやってたりするの?」

「いや、お…僕はそこまではまだ」

「そうなのね。翔とは上手くやれてるみたいね?あなたに頼ってばかりじゃないかしら?」

「いえっ、逆です!僕が櫻井さんに頼ってしまって……」

「だったらいいけど、翔の部屋がこんなにきれいなのはあなたのおかげでしょ?」

確かにしょおくんは家事全般が苦手だから、俺がやってるけど

「いや、そんな事はない……です」

「お茶も美味しいし、ルームシェアしてるのがあなたみたいな人で良かったわ」

「……は、はぁ」

「ふふっ、困り顔は可愛いのね」


どうしていいかわからない状況に早くしょおくんが帰って来てと願う

その願いが通じたのか、ガチャリと玄関の開く音がして、しょおくんの声がした




その場にいる事が出来なくて部屋を出てきてしまったけど、帰るタイミングがわからない

行き着いた公園のベンチに座る

少し早足で歩いたせいか足も痛みが出てきてしまった

寒空に浮かぶ月を眺めて、お母さんの言葉が浮かぶ

俺がしょおくんとそういう関係だと知られたら、あなたみたいな人で良かったと言ってもらえるはずはない

姉ちゃんや大野さん、俺の周りの人は受け止めてくれたからって、しょおくんが周りがそうだとは限らない

そうじゃない方が可能性がある

なんだか一気に夢から覚めたような気がして、ポケットにいれたスマホの振動にも気付けなかった