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潤の退院の日
どうにか仕事の休みを確保して迎えに行った
その足で携帯ショップへ

潤との連絡がとれないのは俺が1番困るから


新しいスマホに電源を入れた途端に呼出音が鳴った

ディスプレイを見て潤の顔色がかわる
手も震えている?


「どうした?出ないのか?」

「う、うん……出る」


少し俺から離れて電話に出る潤
気になって耳を傾けた


「いや、ですからお断りします。
とりあえずって困りますっ!だからっ!あっ!」


どうやら一方的に切れた電話

「潤?誰から?」

「……この前のコンテストの主催者」

「困るとかなんか揉めてる?」

「実は…………」

言いづらそうに潤は今までの事を話してくれた


「なんだ、そいつ?で、今から来いって?」

「うん…なんか話があるって………」

「一緒に行くっ」

「えっ?し、しょおくんっ!ま、待って!」

「きちんと話をしないとわからない様だから、俺も一緒に行って話をする。
潤、1人でいってまたズルズルするのも嫌だし」

「………ごめん……ハッキリ言えなくて」

「それは仕方ないよ。立場がハッキリしてるんだ。しかも潤はこれからの事がある。そんな簡単に嫌だからやらないなんて事はできないさ」



潤を車に乗せその設計士の会社に向かう
受付を済ませ部屋に案内されるとそこには背の高い男と下を向いたままの女がいた

見えないように潤の背中に手を添えて促す


「…お、お久しぶりです……すみません、連絡取れなくなってしまってまして……」

潤に加勢しようと思ったその時


「申し訳ないっ!」

いきなり男が頭を下げた

「「えっ?」」

隣にいた女もそれに倣うように頭を下げる


「松本くんの怪我なんだか、どうやらうちの社員の仕業なんだ……」

その男の話によれば、潤に嫉妬をしていたと
ずっと女はその男に好意を寄せていて、何回も交際を申し込んでいたが、その度に断っていた

そんな中、潤を気に入り入れあげてる様子を何回も見てるうちに潤の事が憎くなり、抑えきれなくなった気持ちがそういう行動に出させた


「……いなくなれば……私にチャンスがあるって………」

か細い声だかそれは憎くしみを伴った声だった


「きちんと社会的制裁は受けさせます。今回は私の行動が招いた事。大変申し訳なかった」

深く頭を下げる

潤の方を向けば困惑顔だ
当たり前だよな


「……あのっ、示談って形はとれませんか?」

潤の言葉にいっせいに3人が振り向く


「潤、おまえっ!」

「大丈夫、しょおくん。
今回の事、許せる行動ではないです。でも、俺がきちんとお断りをしていたら違う結果だったかもしれません。
俺の方にも非はあった。
少なからずここに居る3人それぞれに責任があると思うんです。
だから彼女だけを責めるのは違うかな?って」


「松本くん………いいのか?それで?」

「はい。ついでとはなんですが、俺は隣にいる彼とお付き合いしてます。
だから、お気持ちは嬉しいですが、お応えは出来ません」


「そ、そうか………」


「入賞の方も取り消して頂いて大丈夫です」


「いやっ、それは全く別の話だ。君の設計に惚れたのは事実だ。今でも一緒に仕事をしてみたいと思っている」

「そうですか………嬉しいです。ありがとうございます」


「い、いやっ、じゃ仕事の方は進めてもいいかな?」

「個人的なお付き合いは出来ない
それでよろしければ、勉強させて下さい。
《W》さんの設計、好きなんです」


ハッキリした潤の態度に惚れ惚れした

俺と付き合っている事も隠さずに

嬉しい………

潤の腰に手を廻し俺の方へ引き寄せた

「わたくし、こういう者です」

俺はそいつに名刺を差し出す

「松本はうちの会社の人間です。何かある時は必ずうちを通して頂かないと困ります」

し、しょおくんっ!

大丈夫だからと目配せする

「わかりました。では、後日改めて仕事の依頼させて頂きます」


「よろしくお願いします」



会社を出ると後ろからひょこひょこ歩きながらついてくる潤


「大丈夫か?」

「あっ、うん。ごめん、いろいろと……」

「カッコよかったよ、潤」

「そう?内心ドキドキだったんだけど。心臓飛び出るかと思った」

ふふっと笑う姿…………可愛い❤


「ってか、しょおくんの会社の社員って………すごい誤魔化し方だね」

「誤魔化しじゃないよ」

「えっ?」

「さっきから潤は俺の会社の社員。
仕事は全て会社を、俺を通してもらう。
社長特権を駆使してみました」


「しょおくん……」

「潤が何かがあった時に後から俺だけ知るのはこりごりだからな」

潤を助手席に座らせ、頬にキスを落とす


「さぁ、久しぶりの我が家に帰ろうぜっ」


「うんっ!」