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あれから数ヶ月
俺は卒業後の、潤は2年になってすぐのコンテストの準備にお互い忙しくしていた
俺の仕事は環境に優しい日本で開発された技術を海外に提供する事
元々、親父の会社がエコ技術の開発で日本ではそこそこの会社だった
親父も元開発者という事もあって、会社の技術者や研究者の方も優秀な人材が多い
ただ、問題だったのは親父自身が頑固な職人気質で、海外にまで手を伸ばしたがらない事だった
俺は絶対、海外にその技術を輸出すればもっと研究にも資金を投じる事が出来るし、会社も大きくできるって何度も説得したけど、現状維持が出来ればいいとその一点張り
散々、話し合った結果が俺が起業して俺の会社がその技術を買う
それを海外に輸出するという方法だった
いずれは尊敬する親父の元で働きたい
その為にはこの事業を成功させ親父を納得させる事が必要だ
卒業式当日
「しょおくん、卒業おめでとう」
「ありがとう」
卒業式用にと潤が見立ててくれたスーツに身を包む
大学に向かう電車もこれで最後かと思うと同じ様な景色なのに不思議と違う景色に感じる
まぁ、大学の卒業式なんてそんなたいした事はなくて、その後の飲み会の方にみんなのテンションも向いている
滞りなく一連の行事を終えて、すでにいつもの居酒屋に到着
今日は後から潤もニノたちと合流する予定だから楽しみだ
一緒に暮らすようになって、なかなか外で食事をする機会も減ったしな
「皆さん、卒業おめでとうございます」
ニノと一緒に現れた潤
「にのちゃーん、待ってたよー」
すかさずニノに飛び付く雅紀
「はいはい、おめでとうございます」
そんな雅紀をニノは慣れた手付きであしらう
「しょおくん、改めておめでとう」
潤がその隙に俺の元にいそいそとやってくる
「あぁ、ありがとう」
クシャっと頭を撫でれば上目遣いで俺を見上げる
やばっ!可愛い
「しょおくん?」
「い、いや、なんでもない」
「なんだよ、翔~~~お前、松本といい雰囲気じゃねぇ?」
「俺も思った!」
「松本くんが櫻井といると可愛くなるって私も思ったー!」
なんて口々に騒ぐ仲間たち
そういえば話してなかったな
「俺、潤と付き合ってるんだわ」
潤と恋人繋ぎをした手を皆に見せびらかす
「ち、ちょっと、しょおくんっ!」
「なんだよー、松本も《しょおくん》なんて甘々で呼んじゃうのかよ~~~」
「私、松本くん狙ってたのに~~~」
「あっ、俺もっ!」
次々と出てくる言葉に潤はあ然としているが、潤がみんなから可愛がられてるのはなんとなくわかってた
俺は牽制の意味も込めて、潤の肩を抱くと頬にキスをした
「俺のだからなっ!お前ら手を出すなよっ!」
「ちぇ、櫻井に先越されるとはなぁ」
「松本!翔が嫌になったらいつでも俺のとこに来いよっ!」
「せ、先輩っ………」
俺のキスと周りの冷やかしに耳まで真っ赤な潤
雅紀の時もそうだったが、こいつらはそういう偏見がなくてありがたいな
卒業してもこいつらとは繋がっていたい
どんちゃん騒ぎは明け方まで続いた
潤はひたすら皆に冷やかされ続け、最後にはふくれっ面をしてニノの後ろに隠れてしまったが、さらにその行動が女達の母性を擽ったらしく、すっかり潤の母親状態の女性陣
俺に何かされたらいつでも言えとか、浮気されたら殴ってあげるからとか………
俺、悪者かよ
朝日が昇る頃、やっとお開きになった
「またなー」
と言葉を交わしながらも、今まで通りにはならない事を感じつつそれぞれが帰路についた
「潤?」
今だ少しふくれっ面の潤
「良かったな、みんなが認めてくれて」
「………うん」
そっと潤から手を繋がれる
俺はその手をギュッと固く握った
「さて、帰ろうぜっ、俺達も」
「うん!」