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卒論用の資料を整理していると俺のスマホが音をたてた


『ご心配かけてすみませんでした。
無事、退院して今、家に帰ってきました。』


『無事、退院できて良かったよ。
まだ、無理するなよ。』

『はい。少し休みます。』

『次の集まりまでには体調整えておけよ。』

『はい。ではまた』



次、潤に会えるのは次の集まりまで無理かな?
そう思うと寂しいが仕方ないよな

そんな事を考えていると、ニノからLINEがきた


『しょうさん、時間あります?』

なんだ?珍しい

『大丈夫だけど』

『なら、今から駅に来て下さい。俺もあと10分くらいで着きますから』

『なんでよ?』

『いいから、来て下さいね』



訳も分からないまま、なぜか駅に向かう



「しょうさん、こっち」

ニノに手招きされて、付いて行く 
手にはスーパーの袋

「なんだよ。なんか用があるんだろ?」

「いいから、ついてきて下さい」


さらに訳の分からないまま、ニノの後を付いて行くと、1棟のアパートの前に着いた

ある部屋のインターフォンをニノが鳴らす

扉の横には《Matsumoto》

「えっ?ニノっ?」

「じゅんくん家ですよ、しょうさん」

なんだって??

「出ないですね。寝てるかな?」

休むって言ってたもんな。
会えないのは残念だけど

そう思っていたのに、ニノは鞄の中をゴソゴソすると1つのカギを取り出した

「姉ちゃんから預かってきたんです」

ニヤリと笑うとなんの迷いもなく、カギを開けた

「お邪魔しますよ~~~」

そっと玄関を開けるニノに迷いながらも一緒に入ってしまった



フワッと香る潤の匂い
きちんと揃えられた玄関の靴

ニノはさっさと靴を脱ぐとキッチンへ向かった


「しょうさん、寝室はあっちです。じゅんくんの様子、見てきて下さい。
俺は夕飯の支度しますから」

「はいっ?」

「だから、退院して間も無いじゅんくんに栄養つけてもらう為に来たんですよ。
しょうさん、料理出来ないでしょ?
だから、じゅんくんの様子みてきて下さい。
俺、夕飯作るんで」

「えっ?」

「早く見てきて下さい。雅紀も後から来ますから。
分かりました?」

「は、はいっ……」

ニノの指した部屋の扉に手をかけようとした時

「あっ!しょうさん!」

「な、なんだよっ?」

「襲わないようにして下さいね。病み上がりですから、じゅんくん」

「なっ、な、何言って………」

俺はニノから逃げる様に潤の寝室に入った





ベットの上にはすやすやと眠る潤

顔色、少し良くなったな

規則正しい寝息にホッとする




しかし、潤って可愛いかと思ってたけど、目を閉じてると美人な感じだな

色白だし、ちょっと開いてる口と下にあるほくろが色っぽい

男……なんだよな


そう言えばニノが潤は初恋してるって
この瞳に誰を映しているんだろうか?

そっと頭を撫でてみる

柔らかい髪が気持ちいい
ずっと触ってたいな
ちょっと癖のある髪を指に巻き付けた




「……っん…う………ん」


ヤバいと思った時には遅かった
パチリと目の開いた潤と目線が合う


「…し、しょ…う………しょうさんっ?なん、なんでっ!?」

「ご、ごめん……いや、ニノに……」

「ニノ?かずが来てるんですか?あれ?カギ、空いてました?」

「い、いやっ、ニノが……」




「あっ、じゅんくん起きた?」

潤の声を聞きつけて、ニノが部屋に入ってきた

「な、なんでかず、いるの?
カギ、開けっ放しだったの、俺?」

「姉ちゃんに預かった」

そう言ってニノはカギを揺らした

「万が一の為にって、姉ちゃんが俺に置いていったんだよ」

「はぁー、姉ちゃん…」

「まぁさ、心配なんだよ」

「わかってる。って、ちょっとかず、こっち来いよ」


何やらニノとこそこそ話す潤

だんだんと顔が赤くなり、耳まで真っ赤だ

俺には見せないニノの優しい笑顔に安心した潤の顔

やっぱり2人の間は誰とも違う何かがあるんだと感じた

俺と潤はどうなのだろうか?
あの集まりの中では間違いなく、俺が潤と1番にいるが、ニノのとは違う

潤は俺をどう思ってる?



「しょうさん、どうしました?」


自分の考えの中にハマっていた俺は、潤の声に我にかえった

「いや、なんでもないよ。急に押しかけて悪かったな。」

「いえ、どうせかずが無理矢理連れてきたんでしょう?」

「まぁ、それもあるけど、心配だったし、顔みて確認したかったから良かったよ」

「今日はかずの得意料理のハンバーグですよ。
美味しいんです。一緒に食べましょう」

「そうだな。潤にたくさん食べさせて早く元気になってもらわないとな」


その後は雅紀も合流して、退院祝いと称した飲み会となった