第36話
私が遅刻して登校したのは、2時限目が始まる少し前だった。
私は女優になるのだもの、決して動揺なんかしない。
そして、私は絶対優位で、常盤靖子に対決が出来る。
私は揚々とした顔で、教室に入っていった。
一斉にみんなが私を見た。
私の身の振る舞いにみんなが唖然としているのが分かった。
常盤靖子が振り向いて、何か私に言いたそうにしていたが、私は澄ました顔でスルーした。
2時限目は社会だったが、明日は終業式だ。
もう、誰も勉強をする気などないようだった。
森口先生が1人で説明している。
「1185年に壇ノ浦の戦いで平家が滅亡する」
「いいくに(1192年)作ろう鎌倉幕府」
鎌倉幕府を開いたのは守護・地頭を
置いた1185年の説が本当らしいが、学校では1192年に開いたと、今さらだが教えているのだと思った。
1160年、平治の乱で捉えられた13歳の源頼朝を、平清盛は継母の池禅尼に哀願されて斬らなかった
。
もし、清盛が頼朝を斬っていれば、
38歳になった頼朝に平家を滅ばされなかった。
だとしたら、平家全盛はまだ、何代か続いたのだろうか。
窓の外を見ながら、そんなことを考えていた。
もう今日は森口先生も、私に当てて
、質問をしてこない。
吉永君がちらっと、振り向いていたが、私と目を合わせなかった。
私も吉永君も、そして、常盤靖子も
ただ、放課後まで時間が過ぎるのを待っていたのだった。
新しい担任とさよならのあいさつをして、放課後になった。
私は常盤靖子の方を向くと、大きな声で言った。
「常盤さん、私に泣きながら頼みごとをしてきたわね。話しをしたいって」
廊下に出ようとしている奴も、教室の中を移動していた奴もみんな動きを止めて、私と常盤靖子を交互に見た。
常盤靖子はばつが悪そうな顔をして
、私に向き直った。
つり上がった目が物言いたそうにしている。
私は決して、たじろがなかった。
吉永君が気まずい空気を打ち破るように口を開いた。
「どこで、話しをするの?」
私は「さあ」と、他人事のようでも、肩をすくめた。
杏が泣きそうな目をして、私を見ている。
杏に対して友情の気持ちはもはや、消え失せていた。
私を裏切って、常盤靖子に付かなければ、生きていけなかったのは解る
。
でも、私と一緒に闘おうともしてくれなかった。
杏が出来るはずもないことは、私がよく知っている。
でも、そばにいて欲しかった。
小学生の時、男子にからかわれて泣いていた杏を、守ってあげたのに。
今さらという気持ちが私を嫌な女にしていた。
常盤靖子が私に近寄ってきた。
つり上がった目が近寄ってきた。
あの日のT神社の時とは違う。
私の方が優位なのだ。
私は身じろぎもしないで待っていた。
50㎝ほどまで近寄って立ち止まった時、びんたのお返しをしたい衝動にかられたが、我慢をした。
「外へ出よう」
常盤靖子は小さな声で提案した。
私と常盤靖子、そして、吉永君と3人は、校門を出ると、西に向かった。
3時半だった。
家へ帰って、着替える時間はなかった。
5時に常盤靖子をT神社の石段に連れていかなければならない。
その前に常盤靖子から聞いておきたいことが、たくさんある。
私達はというより私はT神社と徒歩で5分の距離のT駅に向かった。
私達が3人で並んで歩くのもおかしいし、そんなことも出来る訳がない
。
私は先に歩いて、その後を吉永君、
常盤靖子と続いていた。
私は今朝、浅井刑事に会って来た。
そして、松村がお母さんの背中を階段の上から押したらしい、と話した。
私はそれを吉永君に、そして常盤靖子に伝えようとしていた。
つづく
最後まで読んでいただき、感謝いたします。
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