ミステリー小説の殺しの場面を書いたあと、なぜか、虚脱感に襲われる私です。
浄化の意味も込めて、童話を書きました。
良かったら読んでみてください。
*
〈ん〉君の家出
おかあさんとレモンちゃんは、夜、おふとんの中で、しりとり遊びをしながら眠ります。
しりとり遊びはおしまいに「ん」がつくと負けですから、おかあさんもレモンちゃんも気をつけながら、ことばのやりとりをしていました。
ところが、〈ん〉君がすっかり気を悪くしてしまったのです。
ある朝のことです。
「おかあさ◯、おはよう」
「レモ◯ちゃ◯、おはよう」
おかあさんとレモンちゃんは「あれえ!?」と、おどろいて顔を見合わせました。
2人とも〈ん〉が言えなかったのです。
「ん……?」
おとうさんは目をしばたたいて、おかあさんとレモンちゃんをかわるがわる見ました。
テーブルの上に手紙が置いてありました。
「ぼくは〈ん〉君です。ぼくだって、ことばになります。なのに、おかあさんとレモンちゃんはぼくのことをきらって、おしまいに〈ん〉がつくことばを言ってくれません。
そんなに、ぼくのことをきらいなら、ぼくはおかあさんとレモンちゃんの声から家出します。
さようなら。」
それからが、たいへん。
「レモ◯ちゃ◯、に◯じ◯を食べなさいよ」
「おとうさ◯、し◯ぶ◯を持ってきたよ」
「あら、たいへ◯。おとうさ◯のハ◯カチにアイロ◯をかける◯だったわ」
おとうさんもおかあさんもレモンちゃんも、何を話しているのかさっぱり分からなくなってしまいました。
「おとうさ◯、頭がへ◯になりそう」
レモンちゃんが困った顔をしています。
「おとうさ◯、おかあさ◯も、頭がへ◯になりそう」
おかあさんも、頭が痛くなっています。
そこで、おとうさんは、たぶんどこかで聞いているはずの〈ん〉君に、話しかけました。
「おかあさんとレモンちゃんはしりとり遊びをしていただけだよ。〈ん〉君、君が最初につくことばってないだろう」
おとうさんは大きな声で、
「だから、しりとり遊びの時は、きみがおしまいにつくことばを言えないんだよ」
おかあさんとレモンちゃんがおしまいに〈ん〉のつくことばを言わなかった理由を説明しました。
「わたし、〈◯〉く◯のことがきらいで、のけものにした◯じゃないよ」
レモンちゃんが涙ぐんでいます。
「〈◯〉く◯、もどってきてちょうだい」
おかあさんがお願いしました。
実は〈ん〉君、天井のかたすみにはりついて、さっきからこのようすを見ていたのです。
「しりとり遊びのときはぼくはいらないんだ。でも、普通に話すときは、ぼくがいないとこんなに困ってしまうんだね」
〈ん〉君は胸をはりました。
とても、得意そうな顔をしています。
〈ん〉君はおかあさんとレモンちゃんの声にもどってあげることにしました。
それからというもの、「ん」君、おかあさんとレモンちゃんが、おしまいに〈ん〉のつくことばを言うたびに、すっかりはりきって、飛び出してくるんですって。
「どうぶつえ《《ん》》に行こう」
「らいお《《ん》》が見たいね」
「きり《《ん》》も見たいよ」
「ぺ《《ん》》ぎ《《ん》》もね」
おやおや、たいへん。
おしまい
愛川るな
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