最終話
萌子さんのご主人を殺したのは、実亜じゃない!
この僕だ!
僕はアクリル板の向こう側にいる実亜に、何もかも打ち明けてしまいたい衝動にかられた。
僕はただ、ただ実亜を見つめているしかなかった。
「秀ちゃんに謝っても、謝っても謝り切れない。ううん、秀ちゃんだけではない。萌子さんにもご主人にも
そうよね」
「実亜は十分に謝ったよ。そして、今、実亜は罪を償っている」
こんなことが言える僕の卑怯さに自分でも怖くなる。
「でも、無理だわ」
実亜は何の躊躇いもなく、きっぱりと言った。
「秀ちゃん、離婚してください」
実亜は哀願するように頭を下げた。
僕は慌てた。
まさか、実亜から離婚話を切り出されるとは、考えもしなかった。
実亜を守る…そう思うことで、僕は自分の犯した罪から逃げていた。
もし、実亜を守れないのなら、僕はどうやって生きていけばいいのだろう。
僕は実亜がさっき口にした「自由になりたい」という真意を訊いてみた。
「私が出所して、秀ちゃんと暮らしたところで…」
実亜は一度言葉を切って、口ごもると下を向いた。
しかし、意を決したように僕を真っすぐに見直すと、実亜は言いにくそうに言葉にした。
「秀ちゃんに縛られて生きていきたくないの」
「…縛る?」
「私を守るって、つまり、縛ることでしょ」
「だけど、自由は独りぼっちになることだと、前に実亜が言っていたじゃないか」
僕は幾分、実亜を責める口調になった。
「独りぽっちは嫌だって、実亜は」
そこまで矢を射るように話してた僕を、実亜が僕の名前を呼んで、制した。
実亜の強い視線に気圧された僕は口をつぐんだ。
「私、変わったの。強くなったの」
そして、「ごめんなさい」と投げるように言って、実亜は立ち上がった。
看守に目顔で合図を送って、実亜はドアに向かった。
「実亜!!」
僕は立ち上がって叫んだ。
振り向いた実亜は、微苦笑を浮かべながら、
「秀ちゃんの心に封印している女性に負けたの。あたし」
実亜はそんな言葉を残して、僕の前から消えていった。
僕はへなへなと椅子に寄りかかった。
どうやって、刑務所を出て来たのか覚えていない。
外は寒かった。
コートの襟を立てることも忘れていた。
僕はもはや、生きることも死ぬことも出来ない人間なのだ。
僕は人を殺したのだ。
例え法の裁きから逃れても、報いを受けるのは当然のことだ。
しかし、まさか、実亜から裁きを受けるとは思いもよらなかった。
自分の都合のいいように解釈して、自分で自分を弁護していた。
やはり、自分で自分を裁くしかないのだ。
今、僕はどこを歩いているのだろう。
歩みを変えたところで、家に帰れる訳でもなかった。
僕の心にいつも寒いカケラがあった。
冬至がもうすぐだな…とぼんやり思った。
生きることも死ぬことも許されない僕はどうしたらいいのだろう。
でも、選ばなくてはならない。
僕は自分で自分の命を葬ることを決心した。
完
長い間、読んでいただきありがとうございました。
コメントをいただけたら、嬉しいです。
愛川るな
小説(ミステリー) ブログランキングへ ポチッとしてくださいね。
Android携帯からの投稿