第25話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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       第25話


僕は萌子さんを、やっと見た。

萌子さんは僕を捉えると、目だけで頷いた。

「主人をどうして殺したの?」

「申し訳ない」

僕の喉はカラカラになっていて、声がかすれた。

それが、分かったのか

「何か飲む?」

萌子さんは部屋の冷蔵庫のドアを開けた。

「ビールがあるけれど」

「いや…アルコールは飲みたくない」

そう答えて、僕はレースのカーテンを開けて外を見た。

白いヴェールをまとっている藻岩山が目の前に迫っていた。

萌子さんはグラスを僕と自分の前に置くと、オレンジジュースを注いでくれた。

「…ありがとう」

僕はそれを一気に飲み干した。

ジュースの味など分からなかった。

「私、謝ってほしくて、訊いているんじゃないのよ」

萌子さんの僕を見据える目が、柔らかく感じた。

僕を責めていないことは解る。

「実亜を…」

「うん…」

僕は自分の気持ちが上手く言えなくて、そのまま押し黙ってしまった。

目の前にいる萌子さんは、20年前、愛した人だ。

あの時の若々しさが失せているにしても、やはり、萌子さんは美しかった。

僕は実亜と結婚生活を送りながらも、萌子さんのことを一時も忘れたことはなかった。

だけど、僕は実亜を萌子さんのご主人から、守りたいと思ったのだ。

僕はやっとの思いで、萌子さんに心の闇の真相を打ち明けた。

「ご主人が生き返ってしまったら、実亜がおしまいになると思ったんだ」

「実亜ちゃんのことを思ったのね」

萌子さんは低くそう言いながら、僕のグラスにジュースを注いでくれた。

「実亜がご主人を殺そうとしたことが、バレたら、また、厄介なことになると思って…」

僕はグラスのジュースをまた一気に飲み干した。

「主人から私を奪おうとした訳ではないのね」

抑揚のない声で萌子さんは独り言のように呟いた。

「ごめん。実亜を守りたかった。ただそれだけだった」

萌子さんが薄く笑った。

「正直に話してくれてありがとう」

今度は萌子さんがジュースを一気に飲んだ。

「僕、自首をします」

「実亜ちゃん、もっと苦しむわよ」

萌子さんの語気が強かった。

僕はその勢いに気圧された思いだった。

「でも、殺したのは僕だから」

「秀治君が逮捕されて、実亜ちゃんが釈放されて…それで、実亜ちゃんが一人で生きていけると思うの?」

「でも、このままじゃ」

僕は自分の罪をもう背負いきれないところまできていた。

あの事件以来、落ち着いてぐっすり眠ったことがない。

いつも、悪夢にうなされていた。

僕はもはや、起きていても、眠っていても、悪夢の世界でしか、生きられない気がした。

「私はいいの。運命だから」

「…運命。でも、僕は萌子さんを不幸にしてしまった」

僕はもうこの場を離れたかった。

いたたまれない気持ちだった。

「ねえ、秀治君。人は幸せになるために生まれてきたと思う?」

「……」

「人は自分の運命を成就するために生まれてきたのよ」

「そんなこと、理想だろ。現実に僕は萌子さんのご主人を」

いきなり、僕の口が萌子さんの唇で塞がれた。

続きが言えなかった。

萌子さんと僕は抱き合い唇を重ね合い、そのまま、もつれ合いながら、ベッドに倒れ込んだ。

「怖いの。秀治君、どこにも行かないで」

萌子さんのささやきに、僕は拒むことができなかった。

          続く

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

コメントをいただけたら嬉しいです。

          愛川るな 



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