夜の動物園を中村さんは懐中電灯で
照らしながら、見回っていました。
すると、物かげから黒いものがサーっと飛び出ていきました。
中村さんは思わず立ち止まりましたが、すぐに懐中電灯で辺りを照らしました。
しかし、光りの輪の中には、それらしきものを捕らえることは出来ませんでした。
中村さんは、
「迷い犬か何かだったのかな」
首をかしげました。
ところが、次の日も同じことが起きたのです。
中村さんはつくづく首をかしげました。
中村さんは、このことを園長さんに知らせることにしました。
その話しを中村さんから聞いた園長さんは、しばらくの間、腕を組んで考えていましたが、
「明日、動物園の中を調べてみましょう」
と、提案しました。
次の日の朝、さっそく、園長さんと中村さんは、動物園の中を調べてみました。
そして、飛び出て行った辺りを見てみますと、そこに、オレンジ色の毛がパラパラと落ちていました。
それは、キタキツネの毛でした。
実は、1ヵ月ほど前、まだ雪の残っている山の中で、1ぴきの赤ちゃんギツネが見つかりました。
赤ちゃんギツネはまだ灰色の毛をしていました。
どうして、1ぴきだけ取り残されていたのでしょうか。
キタキツネは常に安全な場所へと引っ越しをするので、その時、キタキツネのお母さんが、くわえていた赤ちゃんギツネを落としてしまったのかも知れません。
赤ちゃんギツネは、ただ、
「ミャー・ミャー」
泣いてばかりいました。
中村さんはそんな赤ちゃんギツネに哺乳ビンで、ミルクを飲ませて育ててきたのです。
しばらく考えていた中村さんは、園長さんに言いました。
「もしかしたら、赤ちゃんギツネのお母さんが子どもを探しにきたのかも知れませんね」
園長さんも「そうかもしれませんね」とうなずきました。
その夜、園長さんと中村さんは、子ギツネのおりが見える木かげにかくれて、息をひそめてじっとしていました。
やがて、黒いものが暗やみの向こうから近づいてきました。
頭をすくっともたげ、辺りを見回しながら現れたのはキタキツネでした。
園長さんと中村さんは息を飲みました。
でも、今は見守っているしかありません。
キタキツネは子ギツネのおりの前で横向きになると、ぴたりとおりに体を付けました。
すると、子ギツネはあみの間から顔を突き出して、お母さんギツネのおっぱいにぶら下がりました。
キタキツネのお母さんを、毎夜、自分の子どもに母乳を飲ませるために
、何キロも離れた山の中から、危険な街をとおって、通ってきていたのです。
何日かしたある日、中村さんは子ギツネをトラックのおりの中に乗せました。
山に住んでいるお母さんギツネのところに返してあげることにしたのです。
子ギツネの毛の色は、見事なオレンジ色に変わっています。
「ぼくのところにも、初めて赤ちゃんが生まれたよ。君と同じ男の子だよ」
中村さんは少し、照れたように言いました。
空には、こいのぼりが泳いでいました。
おしまい。
*もう十数年前になりますが、新聞のコラムに実話として書かれていた記事を童話にしてみました。
記憶をたどりながら、書きました。
読んでくださり、ありがとうございます。
愛川るな
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