第20話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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       第20話


萌子さんの悲鳴が聞こえてきた。

実亜は震えていた。

僕の身体にしがみついている。

「実亜、廊下に行こう」

僕はそう言って、実亜と廊下に出た。

もちろん、朔夫婦も出てきていた。

僕と朔は顔を見合わせ、頷き合うと、僕は萌子さんの悲鳴が聞こえた部屋のドアをノックして開けた。

萌子さんが床に座り込んでいた。

窓側のベッドの上でご主人が仰向けで寝ている。

「どうしたんですか!?」

朔が叫んだ。

早苗さんが、萌子さんの近くに寄り手を貸して立たせてあげようとしていた。

でも、萌子さんは足がすくんで、立てない様子だった。

「死んでる…」

萌子さんは、消え入りそうな声でそう告げた。

僕と朔がご主人のベッドに近寄った。

首に紐が巻かれている。

朔がご主人の鼻の近くに耳を寄せて、息をしているかどうか確かめた。

「ご主人」

朔がご主人の肩を揺り動かしたが、反応はなく、首がだらりと動いた。

朔が「ヒイッ」と声を上げて、後ずさりをした。

「どうして死んでいるの?」

早苗さんが呻いた。

「萌子さん、しっかりして!いったい、どうなっているの?」

早苗さんの怒りに似た声が飛んだ。

「救急車を呼ばなくちゃ。警察に知らせないと」

早苗さんの判断は的確だ。

僕にしがみついていた実亜が気絶し
た。

僕は実亜の頬を叩いて、「実亜、実亜」と呼んだ。

薄目を開けた実亜が怯えている。

「実亜さんが殺したのか?」

朔が僕を憐れむ目で訊いた。

「どういうこと!!」

萌子さんを解放していた早苗さんが
立ち上がると、目をむいて僕に詰め寄った。

「早苗、止めるんだ」

朔が諭すように制した。

「みんな、変よ!何なの」

僕達は押し黙っていた。

「とにかく、救急車。そして、警察に知らせないと」

早苗さんが気が狂ったように叫んだ


「実亜ちゃんを警察に渡せないわ」

萌子さんが静かに訴えた。

実亜は僕の腕の中で泣き崩れた。

「何なのよ。さっぱり解らない。実亜ちゃんがなぜ、萌子さんのご主人を殺すのよ」

早苗さんが絶叫している。

「萌子さん、そんなこと言っても、ご主人が亡くなっているんだ。実亜ちゃんには自首をしてもらうしかないでしょう」

朔がそう言って、僕に判断を促した。

僕は答えられなかった。

僕の腕の中で泣きじゃくっている実亜を手放して、警察に渡す。

そんなことが出来るのか。

しかし、殺人という重い罪を見逃すわけにはいかない。

窓の外が明るんできているのが分かった。

冬の朝は遅い。

それでも、明るんできているのが分かるのだから、6時にはなったのだろう。

時間がない。

「棄ててきて」

萌子さんの信じられない言葉に、みんなは息を飲んだ。

「偽装して」

なおも続けて、僕達に要求した。

早苗さんが「頭、おかしいんじゃないの」と、叫んでから「実亜ちゃん、本当に殺したの」と、詰め寄った。

重たい空気が流れている。

「私、自首する。みんな、ごめんなさい」

実亜が放心状態のようにつぶやいた。

実亜を守りたい。

しかし、罪を隠蔽出来るはずがない。

今、ここに起きた恐ろしいことが、ご主人の死体を前にして、現実であることは確かだった。

でも、悪い夢を見ているような気持ちでもあった。

悪い夢なら、早く覚めてほしい。

しばらくの沈黙を破って、早苗さんが口を開いた。

「実亜ちゃん、どうして殺したのか教えて」

早苗さんさんが冷静さを取り戻したらしいが、怒っている口調だった。

「徹(とおる)さんは、私を捨てた男だったの」

早苗さんが「徹さん?」と、問い返してから、直ぐに記がついたらしく「ああ、ご主人のことね」と合点したらしかった。

「捨てた男だから、殺したの?」

早苗さんの訊きかたには、迫力があった。

「早苗、尋問のようにするな」

朔が早苗さんをたしなめる。

「あのね。どういう状況か分かっているの?」

早苗さんが呆れたように朔に言い返した。

「それに、こんな悠長なことしていていいの?」

「だから、お願い。早く、片付けて」

萌子さんが床に手をついて、倒れそうな自分の身体を支えている。

僕の腕の中にいる実亜を放って、萌子さんを助けるわけにはいかなかった。

「主人が悪いのよ。実亜ちゃんを騙して捨てたんだから」

萌子さんは全て知っていたのか。

「だからって、殺すの?」

早苗さんの言葉が尖っている。

「実亜ちゃんは、今、秀治君と幸せな生活を送っているのに、主人が実亜ちゃんに嫌がらせをしたのよ」

「嫌がらせって、何?」

「多分、実亜ちゃんにまた、求めたのよ」

「多分って…そうなの、実亜ちゃん」

早苗さんが実亜に確かめる。

実亜が震えながら頷いた。

「だって…ご主人、紳士だったし」

早苗さんが呆然としているのが分かった。

「なのに、実亜ちゃん、旅行に来たの?非常識だわ」

早苗さんにとって、思考の外の出来事なのだ。

僕も実亜が、こんな状況下で旅行に来た真意を図りかねていた。

僕達は、何も行動を起こせないまま、それぞれがこの現実に向かい合えないでいた。

          続く

最後まで、読んでくださりありがとうございます。

コメントをいただけたら嬉しいです。



         愛川るな



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