第19話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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       第19話


どのぐらいの時間、萌子さんと僕は愛を繰り返していただろう。

先にいやいやをして、体を離したのは萌子さんだった。

「もう、行って」

「嫌だ」

僕は駄々っ子のように、萌子さんを再び求めた。

「駄目よ」

分かっている。

こんなこと、駄目に決まっているじゃないか。

しかし、僕はもう一度、萌子さんを抱きしめた。

「先に行って。私、もう少し後から行くから」

「これでおしまいなのか?」

萌子さんは困った目をして、僕を見据えた。

「おしまいよ」

きっぱりと宣言をした。

萌子さんの勢いに僕は頷くしかなかった。

僕は静かにその場を離れると、重い足取りで階段を上った。

実亜が眠っている部屋に戻ることが
後ろめたかった。



昨年、いや、年が明けたから、もう一昨年になるのか。

髪を切ってほしいと、店に入ってきた実亜は、泣きながら髪を切らずに出て行った。

萌子さんにあまりにも似ている実亜を僕は呆然としながら見送った。

そして、昨年の冬の12月22日、店から出て来た僕に「すみません」と、声をかけて倒れ込んできた。

僕はとにかく実亜を連れて、すぐ近くにあった喫茶店に入った。

実亜は怯えているようだった。

ウエトレスが運んできた暖かいココアを一口飲んで、少し落ち着いたようだった。

僕はこの時、まだ名前も知らない実亜に萌子さんを重ね合わせていた。

似ていた。

萌子さんに似ていた。

「何も訊かないの?」

実亜は

「僕からは何も訊きません。そちらが話したくなったら、話してください。僕は待ちますよ」

僕はコーヒーを一口飲んだ。

「私、捨てられたの」

あまりにものストレートな言い方に、僕はコーヒーカップを落としそうになった。

目の前で傷ついている子猫に、何て言ってあげたらいいのだろう。

僕は息苦しくなった。

実亜はすすり泣いていた。

僕だって捨てられたことがあるから、気持ちが分かるよ。

しかも、キミによく似ていた人にね


でも、それは言えない。

僕は言葉を飲み込んだ。

「もう少し、このままでいさせて」

実亜は長いまつげを伏せながら言った。

僕は「大丈夫ですよ」と、実亜が気を使わないように、なるべく自然に答えた。

僕は実亜自身になのか、それとも萌子さんに似た実亜になのか、複雑な心を抱えながらも、目の前の実亜をほっとけない気持ちになっていた。

しばらくして、

「私のこと、変な女だと思ったでしょう」

すくような目で僕を見た。

「いや、そんなことないよ」僕は精いっぱいの笑顔を向けた。

実亜も僕に誘われたのか、やっと笑顔を見せた。

その笑顔がますます萌子さんに似ていたので、僕の胸が高鳴った

僕と実亜は運命のごとく、惹かれ合い結ばれた。


僕はそうっと、部屋のドアを開けた。

ベッドに戻ろうとして、僕は狼狽した。

ベッドに実亜がいなかった。

まさか、今の萌子さんと僕の行為を実亜が見たのでは…

僕は部屋を飛び出した。

途端に、実亜が真向かいの部屋から飛び出してきた。

…実亜

廊下の薄明かりの中でも実亜の顔に血の色がないのが分かった。

実亜は僕との思いがけない、対面に動揺していた。

それは僕も同じだった。


僕と実亜は部屋のベッドの中で、息を潜めていた。

やがて、萌子さんの悲鳴が聞こえてきたのだった。

         続く

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

コメントをいただけたら嬉しいです。

         愛川るな



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