第14話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

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      第14話


萌子さんから、今度6人で遊びに行くと聞かされた時、僕はすっかり混乱してしまった。

実亜から何も聞かされていない。

あれだけ、心の苦しみを打ち明けた朔に、僕は裏切られた気がした。

僕は5人から、除け者にされているような疎外感を覚えた。

「いつ、決まったの?」

「昨日、朔風さんと早苗さんがお見舞いにいらして、みんなで意気投合したの」

僕はすっかり呆れて、怒る気にもならなかった。

僕は萌子さんをあらためて見据えた


「あなたは平気なのですか?」

もしかしたら、萌子さんは僕をからかっているのかもしれない。

嘘なのかもしれない。

そんな僕の気持ちを見透かしたかのように、僕の質問に答えないで、

「実亜ちゃんが秀治君に話すわ。『秀ちゃんを驚かしてあげる』って、はしゃいでいたから、私から聞いたことは内緒にして驚いてあげて」

そう言って僕を見つめる目が、僕を20年前のあの若々しかった空間に戻す。

「秀治君、実亜ちゃんには秘密にしておけばいいのよ」

小首を傾げて微かに笑った萌子さんの顔は可愛いらしくて、お人形さんのようだった。

「あなたのご主人にもでしょ」

僕は意地悪く言った。

「そうね。主人にも秘密だわ」

実亜が検査を終えて部屋に戻ってきた。

「秀ちゃん!どうしたの?」

僕を見て実亜が驚喜の表情を浮かべた。


僕は病院の玄関付近の長椅子に座ると、携帯電話で朔との通話記録を開いて、ボタンを押した。

昼の12時が過ぎていた。

朔は昼休みで、オフィスで早苗さんの手作り弁当を食べているはずだ。

朔はすぐに電話に出た。

「おう、秀か」屈託がない朔の言い方に僕は拍子抜けをする。

しかし、僕は詰め寄った。

「どういうことだ、朔。何を考えている。一体何なんだ」

「落ち着けよ、秀。実亜ちゃんから聞いたんだろ?聞いた通りだ」

朔はライオンが悠然と寝そべっているかのように話す。

「だから、どうして朔がそんな提案したんだ」

「秀の気持ちを整理するためだ」

「俺はそんなこと、望んでいない」

僕は低く怒鳴った。

「じゃあ、どうして怒っているんだ」

「一言、相談してくれれば良かったじゃないか」

「相談したら、反対するだろ」

「反対するさ。萌子さんのご主人にどんな顔して会えばいいんだよ」

僕は臆病になっている自分を認めた。

「秀、堂々としていればいいんじゃないのか?」

ーー人を好きになるって、どこからくるのだろう。

年甲斐もなく、今さら僕は何を考えているのやら。

チッ…僕は自嘲するしかなかった。


「萌子さん、綺麗な人だな。早苗もそう言っていたよ。『同性から見てもお人形さんのように可愛い』って。秀が夢中になったのが解ったよ」

そんなことも朔は言っていた。

僕は自室に戻るとまだ午後2時だった。

3週間、主婦がいない部屋は散らかっていた。

トイレも汚れている。

流し台も洗い物が溜まっていた。

明日、帰って来る実亜のために掃除をして、片付けておかなくては。

そう思うのだが、やる気が起きない


僕はコートを着たまま、ソファーに寝転がった。

さっき、帰る途中でコンビニに寄り、ハーゲンダッツのクリスピーサンドの抹茶アイスを買ってきた。

疲労した脳に糖分を与えたかった。

寝転びながら、僕はクリスピーサンドをかじった。

抹茶のほろ苦さと甘さが絶妙だった


ーーもう、なるようになるさ。

僕の知らないところで、勝手に動き出してしまった運命をどうすることも出来ないと思った。

さっきの病院での生き生きした実亜を思い出した。

「秀ちゃん、昨日、朔ちゃんと早苗ちゃんが来たの。それでね、萌子さんと朔ちゃんたち盛り上がっちゃって」

実亜の目がキラキラと輝いている。

「ねっ!」

実亜に同意を求められて、萌子さんは楽しそうに笑った。

「それでね、秀ちゃん。すごいの!」

実亜は興奮している。

「萌子さんのお友達が白老に温泉のついた別荘を持っていて、貸し切りにしてくれるからみんなで2泊3日で行こうっていうことになったの」

僕はめまいを覚えた。

顔が引きつっているのが自分でも分かった。

「駄目だ、それは。ご迷惑だろ」

僕は素っ気なく言った。

「えーっ」実亜がほっぺたをプーと膨らませた。

「だってねえ」萌子さんにすがるように視線を移す。

「迷惑だなんて、とんでもない。遠慮なさらないでください」

萌子さんの声音が優しい空気を作った。


それから、10日して、僕達はそれぞれの自家用車に乗って白老の温泉に向かった。

萌子さん夫婦が先頭になり、続いて朔夫婦、そして僕達夫婦が連なった


待ち合わせは東にある朔の家だった


寒い朝だった。

僕はそこで、初めて、萌子さんのご主人と挨拶を交わした。

物腰の柔らかい紳士に感じた。

嫉妬の念に僕はやり切れなくなっていた。

何も知らない、実亜は

「萌子さん夫婦ってお似合いよね」

憧れを抱いているようだった。


6人はそれぞれに別荘へ車を走らせていた。

この後、過酷な事件に巻き込まれることも知らないで。

          続く

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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          愛川るな


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